園庭を走る園児たち。右の建物は「大川家住宅」主屋

真園長(左)と繁子主任保育士

園庭を走る園児たち。右の建物は「大川家住宅」主屋 真園長(左)と繁子主任保育士

 江戸~明治期の建物で国登録有形文化財「大川家住宅」を園舎とし、90歳の主任保育士が現役で子どもと触れ合うユニークな保育園がある。足利市小俣町の小俣幼児生活団。モンテッソーリ教育、アドラー心理学の理論を基盤に「自由に生きる力と責任」を培う保育の現場を訪ねた。

 「手伝ってくれないかな?」。園庭で女性保育士が問うと、男児は「じゃあ呼んでくるよ」。ほどなく数人が集まり、花のプランターの移動を手伝い始めた。

 年長児が決まった課題に取り組む「設定保育」の時間。保育士から号令や指示はない。だから、設定保育を行う主屋(おもや)内では、夏祭りの衣装作りに夢中の子も。作業を終えると主屋に全年長児12人が集まり、絵本の読み聞かせが始まった。

 大人が何かを強制することはない。園長の大川真(おおかわまこと)さん(68)は「生活そのものが保育。学校教育とは違う」と話す。

 真さんの祖母波子(なみこ)(本名ナミ)が戦後間もない1949年に創立した。その2年前、自由学園創始者の羽仁(はに)もと子(こ)に傾倒して自宅で始めた「小俣女性生活学校」が礎にある。

 現在は定員100人。乳児クラスもあるが3~5歳は縦割りクラスで、裏山も含めた約1万平方メートルの敷地内で基本的に自由に過ごす。設定保育の課題も年長児が話し合って決める。

 真さんが76年に2代目園長に就き、モンテッソーリ教育などの理論を取り入れた。主任保育士で、創立時から務める真さんの母繁子(しげこ)さん(90)は振り返る。「(真さんは)工学部卒で保育の素人。だから当時の『~ねばならぬ』という保育がおかしい、と。そこから、学んでいった」

 園児が庭で遊んでいる時、泣き声が聞こえた。保育士は園児に原因を追及したりはしない。「保育に警察や裁判官はいらない」と真さん。重大な危険にだけ目を光らせる。「子どもは毎日、自分と仲間のことを思考するトレーニングをしている。自分の進路を毎日、自分で決めている」

 繁子さんは言う。「子育てを知らない親も多くなった。だから親には『子どもを抱っこしてあげなさい。』と言っている。この世に助けてくれる大人がいることを教えて、と」

 変わらない園舎、保育の理念。自らも卒園生で、長男(4)が通う同市五十部町、パート従業員女性(32)は「ここでは強要、命令されることはない。一人一人を大事にしてくれる」。自身の記憶と重ね、子を通わせる親は少なくない。

 モンテッソーリ教育 イタリアの幼児教育者マリア・モンテッソーリ(1870-1952年)が考案した。子どもの「自己教育力」を前提に、環境を通じて自発的活動を促す。

 アドラー心理学 オーストリアの精神科医アルフレッド・アドラー(1870-1937年)が創始者。現在の行動や心理状態を、その人の目的から解釈するのが特徴。2016年にベストセラーとなった自己啓発本「嫌われる勇気」で注目を集めた。