古典落語の演目に「藪入(やぶい)り」がある。商家に奉公に出した息子が3年ぶりに里帰りする。待ちわびた両親とその息子のやりとりを描いた人情噺(にんじょうばなし)である▼藪入りは、奉公人が正月と盆の16日前後に主家から休暇をもらい親元などに帰る習わしのこと。本県でも商家や職人などの家で戦前まで続いていたようだ。めったにない休みだけに、当時の若者たちはどんなに盆と正月を待ち焦がれたことだろう▼月遅れの盆が明日から始まる。藪入りは現代ならばさしずめ盆休みの帰省ということか。記録的猛暑が続いたこの夏は、疲れ切った心身を古里でのんびりと癒やす人も多いのでは▼県内各地で、連綿と続いてきた盆にまつわる行事が廃れつつある。先祖供養で盛んに行われた獅子舞も例外ではない。県立博物館学芸員の篠崎茂雄(しのざきしげお)さんによれば、一人立ち三匹獅子舞の形態を今に伝える宇都宮市中里町の「天下一関白流御神(てんかいちかんぱくりゅうおんかみ)獅子舞」など六十数件を数えるのみだ▼一方で復活した例もある。大田原市佐良土の国選択無形民俗文化財の「大捻縄(だいもじ)引き」は昨年、22年ぶりに再開された。関東各地で見られる豊作祈願のための盆綱引きの一種だが、本県では唯一の貴重な民俗行事だという▼過疎化、高齢化の荒波の中で、地域のコミュニティーをどう守るか。佐良土の取り組みは、見習うべき好例だろう。