ロシアのウクライナ侵攻を受けた岸田文雄(きしだふみお)首相の言動の軌跡を振り返ると、政権を取り巻く力学が見えてくる。出だしは岸田氏が折に触れ、安倍晋三(あべしんぞう)元首相に相談する場面が目立った▼「欧米と歩調を合わせたいと思います」。最初の対ロシア経済制裁の直前、岸田氏は安倍氏に報告したそうだ。その後も安倍氏と会談を重ねた▼安倍氏の顔色をうかがう理由の一つは最大派閥を率いる安倍氏との関係堅持。これに加え、見逃せないのが菅義偉(すがよしひで)前首相への対抗だ。安倍氏が米国と同盟国の「核共有」政策に触れ「議論をタブー視してはならない」と表明すると、菅氏は同調した▼岸田氏は被爆地の広島選出で、核共有に慎重な立場。国会答弁でも「議論はしない」と断言した。この否定発言も「事前に安倍氏に耳打ちしていた」(官邸筋)とされ、深謀遠慮が浮かぶ▼首相周辺では岸田派に麻生派、谷垣グループを加えた「大宏池会構想」がくすぶる。安倍氏はこの大同団結を警戒。菅氏に対しては「派閥をつくろうと思えば簡単に結成できるのでは」と持ち上げ、茂木派領袖(りょうしゅう)の茂木敏充(もてぎとしみつ)幹事長にも秋波を送る▼大宏池会構想VS安倍・菅に茂木氏を巻き込んだ構図が透ける。岸田氏の「安倍詣で」は仮想敵を分断する計略か。7月に予定される参院選の結果が暗闘の行方を占う鍵となる。