独自のカクテル「レディビートル」を差し出す田中さん

 現役最後の一杯は、渾身(こんしん)の作「レディビートル」だった-。宇都宮市泉町の「カクテルバータナカ」のオーナーバーテンダー田中與一(たなかよいち)さん(81)=宇都宮市戸祭3丁目=は、自身の誕生日の13日、60年余りのバーテンダー人生にピリオドを打ち看板の灯を落とした。宇都宮カクテル倶楽部(くらぶ)加盟店で最高齢の重鎮。「今まで好きなようにやってきた。もう十分ですよ」と語る表情は充実感に満ちていた。

 田中さんは青森県八戸市出身。19歳で仙台に移り、バーテンダーの道に入った。「稼ぐ手段を水商売しか知らなかったからね。当時のバーテンは水商売の中でも一番格下で、信用ゼロだった」と苦笑いしながらも、「それでも真面目にやっていたら、よい店からも声が掛かるようになった」と振り返る。

 1977年、知人の紹介を受け、池上町に本店を置く「パイプのけむり」で働くため宇都宮に。他店での勤務も経て99年に独立し、カクテルバータナカを開いた。全国的なコンテストで優勝した「レディビートル」「クィンテット」などの独自のカクテルを生み出した確かな技術と、カウンター7席だけの落ち着いた空間で人気店となった。

 ドリンクを出す際、「さあ、おいしいよ」と声を掛ける田中さんの親しみやすい接客も評判だった。

 しかし、加齢により腰や左脚にしびれを感じ、立っているのもつらい状態となった。カクテルのレシピを思い出せないことも増えてきたため、やむなく引退と閉店を決めたという。

 営業最終日となった13日は、午後6時に開店。同11時の閉店まで、常連客が慣れ親しんだ味との別れを惜しんだ。田中さんが最後に作った「レディビートル」は、香草が香るさっぱりとしたカクテル。現在は他店でも注文できるほどに広まった一杯だった。

 同店は今後、親交のあるバーテンダー相葉渉(あいばわたる)さん(34)=松原3丁目=が、居抜きで酒やグラス、シェーカーなどを引き継ぎ、店名を変えて再オープンさせる予定となっている。

 「悩むこともなく、楽しくやってきた60年だった」と田中さん。カクテルの街の灯を、次代に託した。