6年前に妊孕性温存療法を受け、第2子を妊娠中の女性(左)の近況に耳を傾ける鈴木医師=下野市

 将来子どもを持てる可能性を残すため、若いがん患者らが治療前に卵子や精子を凍結保存する「妊孕(にんよう)性温存療法」。栃木県内の医療機関で温存療法を受け、子どもを出産した女性は「がんになっても諦めなくていいことを、同世代の人たちに知ってほしい」と切に願う。温存療法についての認知度はまだ低く、幅広い浸透が課題だ。

 栃木市の女性(38)は約6年前、乳がんの診断を受けた。結婚してまだ1年余りだった。がん治療では抗がん剤や放射線で、生殖能力が低下する恐れがある。「妊孕性温存という方法がある」。自治医大付属病院で勧められた女性は迷いなく応じた。

 片方の胸の全摘手術を受けた翌月、卵子を採取し、受精させて凍結保存した。そして8回の抗がん剤と30回の放射線治療の後、1年半のホルモン療法を受けた。つらい治療の中でも、子どもを産めるかもしれないという可能性が残ることが「唯一の希望だった」。

 がんの診断から2年後、受精卵を子宮に移植。その後妊娠し、無事に男児を出産した。現在、女性は凍結した受精卵を再び移植し、第2子を妊娠している。「子どもに出会えて本当に良かった」と幸せそうに語る。

 一方、温存療法の認知はまだ進んでいない。県央に住む女性は約10年前、20代後半で乳がんと診断されたが、医師からは不妊リスクなどの説明はなかったという。テレビで温存療法を知り、自ら病院を探し、卵子凍結を行った。

 女性は「情報を知らなければ、患者が将来につながる選択肢を失いかねない」と訴える。

 2018年度の国の調査によると、医師から不妊の影響について説明を受けたがん患者は52%と半数にとどまる。自治医大付属病院生殖医学センターの鈴木達也(すずきたつや)医師は「治療法や行政の助成制度が一部の医師に知られていない可能性がある」と指摘する。

 また、がんの種類や状態によっては温存療法を受けられないケースがあるほか、治療を受けても必ず妊娠できるとは限らない。

 鈴木医師は「患者の思いと医学的な意見をすり合わせながら判断する必要がある」とした上で、若い世代のがん患者には「後悔しないよう、選択肢の一つとして温存療法を知ってほしい」と呼び掛けている。