VRで認知症の症状を体験する参加者

 認知症の症状を仮想現実(VR)で体験するイベントが7月25日、足利市朝倉町の市民プラザで開かれた。認知症への理解を深め、当事者との関わり方を考えるきっかけにしようと同市とあしかが介護支援専門員連絡会が共催。一般や介護の専門職ら約130人が、認知症の人がどう周囲の状況を認識しているかを再現した映像を視聴した。県内初開催となった体験会に記者も参加し、当事者の視点を体感した。

 専用ゴーグルとヘッドホンを着けると、街なかの風景が眼前に広がった。ビル屋上の端に立っており、下を見ると足がすくむ。まるで映像の登場人物になったかのようだ。

 男女2人が前に進むよう声を掛けてきた。柵はなく、このままでは地面に落ちてしまう。抵抗するも、説得に負けて足を踏み出す。落ちると思った瞬間、場面が家の玄関前に変わった。

 認知症の症状で距離感がつかみづらくなる「視空間失認」を体験するVRだ。介護者は患者を車から降ろそうとしているだけだが、認知症の人はかなりの高さから落ちるように感じる。そんな当事者の感覚を再現した。

 映像に登場した男女は優しい口調で接してくれた。しかし、ビルの上にいる感覚の身にとっては恐怖しか感じない。暴力や暴言など認知症に伴うさまざまな行動の裏側には、当事者以外に理解されづらい何らかの理由があると実感した。

 VRを制作したのは、高齢者向け住宅の運営などを行う「シルバーウッド」(千葉県浦安市)。2016年冬からVRを活用した認知症体験事業を始め、計約1万8千人が受講している。本県での事業実施は初めて。足利市によると、2015年現在、市内には約7100人の認知症高齢者がいると推計されている。

 25日に講師を担当した同社VR事業部の大谷匠(おおたにしょう)さん(25)によると、VRは当事者の意見を基に作る。視空間失認の映像は、同社の施設利用者に車から降りようとしない理由を尋ねた際、「ビルから落とされる気持ちになる」と話したことを反映したという。

 体験会では、電車に乗っていて現在地が分からなくなる状態と、認知症の一種「レビー小体病」の「幻視」と呼ばれる症状を体験する映像も視聴した。大谷さんは「VRで想像力を養い、当事者への共感の幅を広げたい」と話す。

 知識だけでなく、主観的に体感する情報は病気の理解への強力な一助となる。VRには、当事者と社会の溝を埋める可能性を秘めていると感じた。