わが家は米国のシアトルに1年間滞在し、子どもたちは現地の公立学校に通いました。

 移住者が現地学校に通う場合、州や行政区分によりますが、ESLやELLといった名前で、校内に特別な英語補習授業を用意してくれたり、通常授業時に子どものそばに専門教員が付き添ってくれるスタイルの支援が受けられたりすることが多いです。

 しかもありがたいことに無償です。移民の国である米国は、これも国家のなすべきこととして懐深く構えているということですね。

 さらに、シアトルはもっと制度が充実していました。米国の人種的多様性の中心地の一つであるシアトルには、バイリンガルオリエンテーションセンターという、より先進的な公立学校があり、子どもたちはそこに通うことになりました。

栗原さんの子どもが通ったシアトルのバイリンガルオリエンテーションセンター。移民や難民を対象に英語を基礎から教えてくれる公立学校

 いきなり現地学校に入れるのではなく、一定のレベルに達するまで、同じような入国ホヤホヤの国際色豊かなクラスメートとともに、英語を基礎から集中的に学ぶことができる学校でした。

 一般論として、子どもたちは1年の滞在では英語ペラペラにはなれないと言われていました。たしかにそうでしたが、「思ったよりは学んでいる」という印象です。聞き取りは結構できるようになっています。

 小学中学年あたりの年齢を境にして、それよりも年少の子どもの文法はめちゃくちゃですが発音がとてもすてきです。逆に、年長の子どもの発音は日本なまりですが、文法に興味を持ちました。

 そして帰国すると英語力は失われていくものだとも言われていました。「なるほどな」という印象です。帰国後、しばらくオンライン英会話を継続してみましたが、やはり生活上の必要に迫られないとやる気が維持できずに解約。コロナ禍の中で1年半が過ぎました。

 現在、公立中学生の子どもは、たまたま担当していただいた発音の美しい英語教師のおかげで力を伸ばしており、受験で困らないくらいの英語資格をとることができました。

 一方で、小学低学年の子はほとんど英語力が抜け落ちてしまいましたが、誰よりも美しい発音は健在です。クラスでは「英語は任せて」という謎の強い自信をアピールしているようです。それはそれで結構。

 実力のほどはさておき、米国の学校で1年過ごしたという経験そのものや視野の広がりも、将来において生きるといいなと思っています。

 (栗原一貴(くりはらかずたか)・津田塾大教授)