肩書の一切ない名刺だった。氏名と携帯番号、eメールのアドレスが印字されているだけで、白さがやけに目立つ。念のため裏面も確認したが、何も記されていなかった▼35歳で台湾の行政院に入閣した唐鳳(とうほう)(オードリー・タン)氏には世界が注目した。だが白い名刺の主で22日、公共政策などの分野で那須塩原市の市政アドバイザーになる毛塚幹人(けづかみきと)さん(30)もなかなかすごい▼宇都宮市出身で、宇都宮高から東京大法学部を経て財務省に入省した。将来、国の中枢を担う人材と目されていたが、知人でもある茨城県つくば市長の強い要請を受け、26歳で退職し副市長に就任した▼「地方行政に興味があり、特段迷いはなかった」。一方で歴代最年少の若さへの懸念も当然あり、市議会では人事案件に対する異例とも言える反対意見もあったという▼しかし退路を断った覚悟と、市長が見込んだ政策立案やコミュニケーション能力の高さで程なく溝は埋まった。自治体初の定型業務の自動化ツール(RPA)導入はじめ、産学官連携や産業振興などでも数多くの実績を残した▼副市長継続を求められたものの3月末、「都市経営の実践で郷土に貢献したい」とリセットした。若い世代の台頭は現在の閉塞(へいそく)感の打破を期待させる。今後、毛塚さんの名刺の余白には何が刻まれるのだろうか。