モノクロ写真に写る、上半身裸の男性は、やせ形ではあるが浅黒く至って健康体に見える。そのわずか20日後に69歳でこの世を去るとは、人生何があるか分からない▼「和製ゴーギャン」「昭和の若冲(じゃくちゅう)」との異名をとる栃木市出身の孤高の画家田中一村(たなかいっそん)のことである。撮影したのは小山市在住の写真家田辺周一(たなべしゅういち)さん(70)だ。41年前、奄美大島に住む友人を頼った際に変わり者の絵描きがいると聞き、興味半分にあばら家を訪れた▼一村は嫌がりもせず被写体となってくれたという。当時は画家としては全くの無名。「でも漂うオーラは普通ではありませんでした」と田辺さんは振り返る▼22日は生誕110年に当たる。節目の年に生まれ故郷で発足したのが「田中一村記念会」だ。元中学校長で会長の大木洋三(おおきひろみつ)さん(74)によれば、幼少期に上京したとはいえ、墓もある栃木に一村の原点があると世に広めていく狙いを込めた▼9月11日を「一村忌」として後世に伝え、市内外の素封家に残っているであろう作品の発掘に取り組んでいく。ゆかりの地である奄美と千葉にも同様の顕彰会があり、交流を深めることも計画している▼「絵のためなら他のものを一切犠牲にする信念の人だった」と大木さんは魅力を語る。山本有三(やまもとゆうぞう)や歌麿(うたまろ)らに続く、まちづくりの核となるよう今後に期待したい。