胃炎を引き起こし、胃がんのリスクを高めるピロリ菌。オーストラリアの医師バリー・マーシャルさんはこの菌の病原性を自分の体で証明し、2005年にノーベル医学生理学賞を受賞する▼健康な人に病原体を感染させる研究には特に慎重さが求められる。過去半世紀、被験者が亡くなった事例はないとされる。だが、利益とリスクを説明し同意を得ることはもちろん、研究の意義、健康への影響、発症時の治療法を詰めておかねばならない▼英国政府は3月、新型コロナウイルスを健康な人に感染させる研究を始めた。日本円で約51億円を投じ、18~30歳のボランティアを集め、開発段階にあるワクチン候補の効果を調べるという▼ワクチン候補やプラセボ(偽薬)を投与された人たちを追跡して比較する普通の方法と違って、意図的にウイルスを感染させれば開発を加速できるとの触れ込みだ▼これに反対する声がある。医療倫理の研究者らは「既にワクチンはある」「治療法が未確立」「結果を他の年代に適用できない」「感染による長期的リスクが不明」と指摘する▼参加者への謝礼が約68万円と高く、経済的弱者がリスクを負うことになるとの懸念もある。コロナ対策は喫緊の課題とはいえ、ボランティアの善意を頼って何をしてもいいわけではない。今後の議論に注目したい。