目元にぐっと力を入れる。だが堪えきれない。男の涙に胸が熱くなった。
車いすテニス男子の真田卓(さなだたかし)選手(36)=那須塩原市出身、凸版印刷=は、国枝慎吾(くにえだしんご)選手(37)=ユニクロ=と組んだダブルス3位決定戦で敗れた。2012年のロンドンは8強。16年のリオデジャネイロは4位。「最強のパートナーと戦ったんですけど…。自分の力不足です」。メダルまでの距離を、再び痛感することになった。
「この5年間をぶつける」と挑んだ一戦。第1セットの第4ゲームは相手のサーブを受ける不利な展開を、6回のジュースの末にブレーク。強烈なドライブボレーもたたき込んだ。
ここで3-1とリードしたが「大きなプレッシャーがかかった」。長いラリーの応酬で、体力より精神が削られる。次第に堅守のオランダペアの勢いが増し、ミスショットが増えた。
5ゲームを連続で奪われ、第1セットを落とす。強打に苦しみ、第2セットも後手に回った。
後がない第7ゲーム、相手のマッチポイント。国枝の第2サーブがネットの白帯に弾かれた。激闘の1時間54分。真田選手は目を真っ赤にして、相手ペアの肩を抱いた。勝ち負けは関係ない。パラリンピアンがたたえ合う姿は美しかった。
19歳の時にバイク事故で右脚を失った。リハビリ中に出合った車いすテニス。競技を始め、世界で転戦していくうち、パラリンピックが遠い存在ではなくなっていった。19年は右肘を故障し「無理かな」。出場すらも諦めかけた。1年の延期に救われ「三度目の正直」。心に誓った。
試合後、足元を見つめた。「今日のミスを補うような練習をしていきたい」。年齢の不安はある。だが夢はついえていない。4度目の正直で、かなえたっていい。