パリ中心部の丘に立つパンテオンは、フランスの歴史上の偉人を祭る霊廟(れいびょう)だ。埋葬されているのはルソーやボルテール、キュリー夫妻など政治家や思想家、科学者ら約80人。そこに、異色な名前が加わることが決まった▼ジョセフィン・ベーカー。米国に生まれ、後にフランス国籍を取得した黒人女性歌手でありダンサー、俳優だ。1920~30年代、パリのキャバレーでバナナの腰みのを着けて踊るセクシーなダンスは、一世を風靡(ふうび)した▼06年、人種隔離政策が支配する米ミズーリ州に生まれ、25年にパリへ。肌の色を理由に美容院への入店を断られない世界に初めて触れた。パリの聴衆はベーカーを「黒いビーナス」と称賛した▼第2次大戦が始まると、ベーカーは反ナチスの自由フランス軍に参加。スターの立場を生かし欧州・中東で情報を集め、機密文書を下着に隠して運んだ▼60年代には、母国の公民権運動を支援、63年にキング牧師が呼び掛けたワシントン大行進にも参加した。フランスでは反ユダヤ人差別運動や女性の権利拡大運動の闘士としても知られ、75年に没した▼埋葬は大統領の専権事項だ。決断には当然、来年に大統領選を控えたマクロン大統領が、経済格差や民族差別に揺れるフランスに、多様性の価値と和解を訴える意図とみられるが、果たして奏功するか。