新型コロナウイルス流行が始まって以降、欧米の研究者から対策に関連して多数の論文が出ている。しかし日本からの情報発信は乏しい。理由の一つは「公衆衛生学」の遅れにある▼公衆衛生学は地域や社会全体を相手に病気やけがを予防するのが目的。コロナ禍でも信頼できる情報を発信する米ジョンズ・ホプキンズ大公衆衛生大学院は1916年、ロックフェラー財団の支援で設立された▼同財団は23年の関東大震災を受け、日本政府に同様の機関設立を提案。同財団の資金提供で38年、公衆衛生の実務担当者を養成する旧厚生省所管の公衆衛生院ができる▼「この経緯が日本の公衆衛生学を遅らせる最大の原因になった」と同院疫学部長だった故重松逸造(しげまつ・いつぞう)さんに聞いたことがある。同年発足の厚生省の所管になったことが問題だったというのだ▼公衆衛生学は経済や建築といった学問も必要とする。欧米では大学の医学部や付属病院とは別の独立した大学院になっている。「財団も大学との連携を求めたが、厚生省は関心がなかった」▼この遅れは戦後の公害、薬害事件にボディーブローのように効いてくる。重松さんは、公衆衛生院が厚生省所管になったのは「新しい役所には付属機関が必要だという日本のお役所の癖」のせいだと話していた。変な癖はもうなくなっただろうか。