「私を培ってきた台湾文学や中国古典の漢詩などに政治・皇帝批判が多いからかと思います」。台湾出身の作家で初めて芥川賞受賞が決まった李琴峰(り・ことみ)さん(31)は、作品で政治や社会問題に踏み込む理由を記者会見で説明した▼受賞作「彼岸花が咲く島」の舞台は、台湾近くの架空の離島。はやり病のまん延で「ニホン」から追い出された人や「チュウゴク」に攻められて「タイワン」から逃げてきた人の子孫が住む▼人々は日本語、北京語、台湾語が混ざった言語を話す。争いや殺りくを繰り返してきた男たちは自らの愚かしさに気付き歴史から退場。巫女(みこ)たちが統治し、歴史を伝承する▼台湾の近現代をほうふつとさせ、男性中心社会を痛烈に風刺。名古屋外国語大の藤井省三教授(中国語圏文学)は「ジェンダー、国語、社会体制が転倒したフェミニズム的な自由独立戦略に富む政治的寓話(ぐうわ)」と高く評価した▼「文学は自由であるべきだ。私は自分の書きたいものを書く」。李さんはこれまでもLGBT(性的少数者)や台湾の「ひまわり学生運動」、新疆ウイグル自治区の人権弾圧などを記してきた▼これからも新しい視点の作品で楽しませてくれるに違いない。米中対立が激化し、中台関係は敏感さを増す。日台、日中台の相互理解を促すソフトパワーとしての役割も期待したい。