宇都宮市塙田2丁目の浄鏡寺に、ケヤキをくりぬいて彫られた薬師如来像がある。高さ45センチほどで、裏面には焦げ跡が残る。この原木は、市庁舎がかつて中央3丁目の県産業会館の場所にあったころ、敷地にそびえ立っていた「大ケヤキ」である▼樹齢は千年を越え、国の天然記念物に指定されていた。にもかかわらず、この木の存在を知る市民は意外と少ない。1945年の宇都宮空襲で焼け、今では跡形も無くなったためだ▼像は都内から疎開していた男性が焼け焦げたケヤキの一部を買い取り、市内の仏師に彫らせたという。男性の死後、遺族から仏師の菩提(ぼだい)寺である浄鏡寺に贈られた。制作の理由は定かでないが、まさに空襲の傷跡を伝える貴重な史料である▼大ケヤキ跡から東に約200メートル。現在の市庁舎と県庁を結ぶシンボルロード沿いに立つ「大イチョウ」は、復興のシンボルとして市民に親しまれる▼大ケヤキ同様、空襲の被害に遭ったものの、翌年には新芽が吹き、自力で再生する姿が戦災に苦しむ住民に勇気を与えた。後に市の木がイチョウとなったことなどからも、市民の思い入れがうかがえる▼620人以上の尊い命が犠牲になった宇都宮空襲から、きょう12日で73年。昭和の記憶はますます遠くなる。戦災を風化させぬよう、まずは身近な歴史に関心を持ちたい。