男子200メートル個人メドレー決勝のレースを終え、手を振り引き揚げる萩野公介=東京アクアティクスセンター

 レース後の晴れやかな表情に、胸が熱くなった。

 萩野公介(はぎのこうすけ)は何にもとらわれず、ただ泳ぎを、五輪を楽しんだ。一人のスイマーとして「いい一日だった」と充実感に浸った。

 「神様の贈り物」と表現した男子200メートル個人メドレー決勝は、幼い頃から数え切れないほど戦ってきた盟友瀬戸大也(せとだいや)とのライバル物語のクライマックス。登場前には拳を合わせて健闘を誓い合った。

 「心も体も解放して、泳ぎたいように泳げ」。苦楽を知る平井伯昌(ひらいのりまさ)監督に送り出され、「仕掛けると決めていた」という背泳ぎで最下位から3位まで浮上した。「やりたい泳ぎができた」と悔いのない1分57秒49。「いつもなら遅いタイムだけど、1秒ぐらい、ちょっと長くてよかったかな」と味わい尽くした。

 6位でレースを終えると、4位の瀬戸に合図を送る。互いをたたえ、プールで抱擁を交わす姿はオリンピズムそのものだった。

 リオデジャネイロ五輪直後は前ばかりを見て進んできた。立ち止まり、振り返って見えたものがある。「応援してくれる人や、支えてくれた人が僕の後ろにはたくさんいた」。メダルや成績に追われることが「ちっぽけ」に思えて体が軽くなった。

 プールから離れた日々、復帰して受けた声援、この5年間がフラッシュバックする。その先に待っていた、充実した一日。「水泳を続けてきて、本当によかった」。言葉と同時に、せきを切ったように涙があふれた。今後については「ひとまずは、というところはあるが、未来のことは分からない」と明言を避けた。

 高校生メダリストになって世界を驚かせたロンドン。金銀銅のメダルをそろえて日本を沸かせたリオ。そして決勝進出はわずか1種目で表彰台も遠かった今大会。手にしたメダルはない。それでも「このオリンピックが一番幸せだった」。

 今大会求めたのは結果ではない。復帰後で最高の笑顔を見せた。それだけで、十分だ。