「記憶も記録もございません」と強弁して、真実を語ろうとしなかったり、上司や組織を守ることを優先して忖度(そんたく)を続けたり…。日本の大人社会はいつから、こんな不誠実な空間になったのか。その根源は一体どこに▼日本人元外交官の著作にヒントが示されている。「女神フライアが愛した国 偉大な小国デンマークが示す未来」(東海大学出版部)。著者は元駐デンマーク大使の佐野利男(さのとしお)氏である▼「デンマークに住んで気づくのは、子供たちが自由闊達(かったつ)に振る舞い、その瞳が輝いていることです」。こう記す佐野氏は、今から8年前に赴任、「中学2年まで学科試験がない」と聞かされ、当初は「緩い教育だな。さぞかし生徒たちの学力は低いのだろう」と思ったそうだ▼しかし、デンマーク教育の「神髄」を学ぶに従い、自身の考えを改めていった。子供らの自尊心を養い、自己を積極的に肯定する力を磨くことを重視した教育現場のありように感服したという▼ソーシャル・スキルに比重を置き、すぐに友人をつくれる子供や老人に優しい子供に対し、先生は「その特技は、英語ができるのと同じように素晴らしいのよ」と教えるそうだ▼自分が正しいと信じたことを主張して貫き、他人にも自分にも誠実に振る舞う。そんな「自己肯定力」が、日本社会では衰弱しているのか。