男子60キロ級で優勝し、メダルを手に笑顔を見せる高藤直寿。日本選手団初の金メダル獲得となった=日本武道館

 笑顔で右拳を掲げ、座礼をして畳を下り、涙があふれた。「現実だと思えないっす」。柔道男子60キロ級の高藤直寿(たかとうなおひさ)は表彰台で何度も金メダルの感触を確かめた。

 リオデジャネイロ五輪の銅メダルを超えることが、これほど大変なのか。カザフスタンの元世界王者との準決勝。互いの間合いが攻撃を打ち消し合い、勝負が決まらない。延長も5分が過ぎ、高藤が立て続けに技を仕掛ける。関係者から自然と拍手が沸き起こった。

 大会前、この5年間で「精神的に成長した」と繰り返し話してきた。体力、スタミナの鍛錬も相当なはずだ。時間がたつほどに相手は疲労の色が濃くなり、「待て」の合図では常に先に立った。技のキレ、瞬発力で鳴らした日とはひと味もふた味も違う、大人の柔道を畳の上で体現した。

 決勝は鮮やかな一本も、しぶとい技ありもない。「泥くさくても金メダル」を有言実行した。指導を三つ引き出しての反則勝ちを「計算通り。渋い試合で、見ている人、分かんないでしょきっと」と笑わせた。

 同階級の金メダルは、2004年アテネ五輪で3連覇を飾った野村忠宏(のむらただひろ)さん以来。「高藤にしかできない試合。天才的な駆け引きだった」。そううなったのは井上康生(いのうえこうせい)男子監督だ。祝福すると第一声は「今まで迷惑掛けてすみません」だったと明かし「そんなの吹っ飛びました」と声を詰まらせた。

 日本武道館に国歌を流し、マスクの下で満面の笑み。これが欲しかった-。そんな少年のような表情で表彰台の真ん中にあった。

 悔しさをかみしめてから1812日。最も輝くメダルは「とにかく重たい。リオの時とは重さが違う」。責任や重圧をはねのけた28歳が、日本に追い風を吹かせた。