鎮魂の意味が花火にはある。ならば、夜空を焦がす大輪は天上に向けた献花であり、響き渡る音は愛しい人たちへの語り掛けにも聞こえる▼野木町川田にある田熊火工は創業126年、明治から続く花火作りの老舗である。新型コロナ禍の中、県内外で大会の中止が相次ぐ。昨年の出荷は例年の1割にも満たず、今夏も2割程度にとどまっている▼花火製作は緻密で根気のいる手作業の連続である。搬入・打ち上げがある7、8月を除く10カ月間で、その年の分を作り上げる。30センチの尺玉なら数十の行程があり、完成までに3、4カ月を要する▼肝となるのは「星」と呼ばれる火薬作り。金属化合物の微妙な配合の具合で、輝きや発色がまったく違ってしまう。日々の改善を繰り返しながら新作にも取り組む。あれこれ悩む暇もない▼今季は少しずつだが、各地に再開への動きが出ているという。これまでのように大掛かりなイベントは無理でも、主催者は何とか形を変えて実施にこぎ着けようと奮闘している。同社の江森賢一(えもりけんいち)専務(52)も「最高の作品を届けたい」▼例年のような迫力や華やかさはないかもしれない。ただ今年は東日本大震災10年の節目。新型コロナウイルスの感染拡大や豪雨災害、理不尽な交通事故で失われた命もあった。「安らかに」。慰霊の気持ちを込め眺めたい。