「人間は考える葦(あし)」。17世紀、哲学や物理学などで多大な業績を残したフランスの学者、パスカルの名言である。人は1本の葦のごとくか弱いが、思考という偉大な力を持つ。そんな意味だったと思う▼「アシ」は「ヨシ」とも呼ばれる。本県はじめ4県の4市2町にまたがる渡良瀬遊水地には面積1500ヘクタール、本州最大級のヨシ原が広がる。遊水地は2012年7月、世界的に貴重な湿地としてラムサール条約に登録された▼今年は登録から10年目に当たる。広大なヨシ原を母体に希少な鳥や魚、昆虫が生息し植物が繁茂する。自然の宝庫である。最近ではコウノトリの野外繁殖に成功し注目を集めた▼遊水地誕生の裏には、足尾銅山鉱毒事件に絡む旧谷中村強制廃村の悲劇がある。貯水池(谷中湖)がハート形にへこんでいるのは、村民の子孫らの運動で旧村の跡地を保存したからである▼近年は超大型台風の襲来や豪雨の頻発に伴い、治水機能がより重要視されている。19年秋の台風19号では計画貯水量の94%、1・6億立方メートルという、膨大な流水をためた▼豊かな自然と忘れてはならない歴史があり、生命を守る洪水防止の役割を担う。今後も遊水地を健全に維持し、さらにその価値を高めるにはどうすべきか。多くの“葦”たちが利活用や保全をしっかり考え、将来へつなぎたい。