日本民俗学の祖、柳田国男(やなぎたくにお)の遠野物語に「オシラサマ」の話がある。養蚕の神ともされ、主に東北地方で民間信仰の対象となっている。岩手県遠野市の施設で拝見したご神体は、30センチ程度の棒に布が着せられた2体1対の、独特の姿だった▼県内最大の繭産地である小山市で出荷が始まった。一部で餌となる桑の霜害が出たが、大半はおおむね天候が安定していたことから出来は良いという。JAおやま桑東部出張所に出荷された純白の繭は粒ぞろいだ▼蚕糸統計などを見ると、2020年、本県の養蚕農家は19戸で全国3位、繭生産量は14トンで2位規模である。戸数、生産量ともに首位は、世界遺産の富岡製糸場が有名な群馬県で、全体の4割近くを占める▼繭から作る生糸はわが国の産業近代化の“恩人”である。明治から昭和初期にかけての主な輸出品で、全体の7割にも達した時期すらあった▼しかし今や国産の生糸シェアは1%以下にすぎない。養蚕業の衰退に伴い、農村風景の特徴だった桑畑も激減し現在、国土地理院の2万5千分の1地形図で、桑畑記号は使われていない▼農家に貴重な現金収入をもたらす蚕は「お蚕様」などと呼ばれ、神様扱いだった。子どもの頃に、桑の葉をはむ蚕を無造作に放り投げて大目玉を食ったことを、ゲンコツの痛みとともに懐かしく思い出す。