「カッコーン」。置き薬ケロリンの文字が印字された黄色い湯おけを置くと鳴る、反響音が耳に心地よい。正面に定番の富士山の壁画、壁や床などのタイルは古いが、磨き上げられ清潔感が漂う。横長の湯船はやや深めか▼小山市で唯一の、昔ながらの銭湯「幸の湯」(城山町2丁目)が今月、十数年ぶりに浴場の長い鏡を張り替えた。費用は鏡に掲示する広告の代金を充てた。地元商店街などが応援の気持ちを込めた。昭和40年代の風情が街中で愛されている▼3代目店主、星良則(ほしよしのり)さん(61)は昨秋、父親の死を契機に会社員を辞め、家業を継いだ。「廃業だけはしたくなかった」の一心だった。日々、母親に教えを請い、試行錯誤を重ねながら営業を続ける▼県公衆浴場業生活衛生同業組合によると、県内の、こうした銭湯は宇都宮と栃木、足利に各1軒、そして幸の湯の計4軒を残すのみという▼高齢化に加えて、全面的な改修なら数千万円からの費用が掛かる。入浴料は都道府県ごとに上限が設定され、燃料費が高騰してもすぐに上げられない苦労もある▼江戸後期の滑稽本、式亭三馬(しきていさんば)の「浮世風呂」は世間を知る社会勉強の場で、地位を問わない裸のつき合いなどと、銭湯文化を記す。ただ、そんなうんちくが頭から消し飛ぶほど、湯上がりにあおる瓶のコーヒー牛乳が染みた。