歴史上、才覚と功績は申し分ないのに「知名度はいまいち」という偉人がいる。江戸時代後期の学者、塙保己一(はなわ・ほきいち)はその一人だろう。盲目というハンディを乗り越え、文献集「群書類従」を編さんした。今年、没後200年になる▼7歳で失明。はり・きゅうは上達せず、学問の道に入った。戦や天災で貴重な書物が散逸している状況に危機感を抱き、34歳の時に保存しようと決意する。各地に赴き、神宮や大名家、公家の文献を調査、門人に筆写させた▼記憶力抜群。読み聞かせてもらった写本を校訂し、40年かけて群書類従を完成させた。歴史、文学、医学など全部で666冊に上る。伊勢物語なども収められている▼群書類従が画期的だったのは「版木」で書物を量産化したことにある。日本の大規模出版事業のはしりだった。現在、塙保己一史料館(東京)で現物を見ることができる▼館長の斉藤幸一さんは「幕末の混乱期、関東大震災、東京大空襲と幾多の困難をくぐり抜け、版木はすべて残った。奇跡です」と感慨深げに話す。今も研究者らからの注文を受けて和紙に一枚一枚刷って製本、販売している▼インターネット全盛の時代、江戸時代の版木が現役であることに驚かされる。後世に残そうとした遺志も受け継がれている。塙の生きざまと実績は、もっと評価されていい。