〈顔の上蚊の声過ぎし夜明けかな〉(加畑吉男(かばたよしお))。清少納言(せいしょうなごん)は枕草子で「にくきもの」に「蚊の細声」を挙げた。古来、蚊は人々を悩ませ続けた嫌われ者なのである▼梅雨明けし夏本番が到来したが、蚊が大活躍する時季だと思うと少々気がめいる。かゆいだけならいいけれど多様な感染症をもたらす厄介な存在であり、十分な警戒が必要だ▼自治医科大で蚊を研究する講師の山本大介(やまもとだいすけ)さん(41)によれば、平清盛(たいらのきよもり)の死因はマラリアだったそうだ。日本由来のマラリアは撲滅したが、当時は普通にあった感染症だった▼本県にも生息するコガタアカイエカが媒介する日本脳炎は、今もごくまれに見られ、都内などでヒトスジシマカ(やぶ蚊)によるデング熱騒動が起きたのは4年前のことである。グローバル化が進展し、ジカ熱などが日本に侵入する懸念は消えない▼人の血を吸うのはメスのみで、卵をつくるタンパク質を補うためという。約1カ月の生涯で、人を刺すのは多くて2回。普段はオス同様、花の蜜などを吸って生きている。子孫を残すため、蚊も命がけなのだ▼蚊を完全に駆除するのは困難だから、刺されないことが最大の感染症予防だと山本さんは説く。憎き蚊の絶滅を願いたいが、生態系維持のために蚊は必要との学説もあるそうだ。無駄な命は一つもないということか。