「琵琶湖の深呼吸」という自然現象がある。冬の間、冷やされた表層の水が重くなって沈み込み、湖底の方にある下層の水と混ざり合う現象だ▼地球温暖化が進んで冷え込みが弱くなれば、深さ90メートルを超える、琵琶湖で最も深い北湖の水域での「全層循環」が観測されなくなる。そうなると、底の方では湖水の酸素量が減り、生物が死んでしまう恐れがある▼こんな深呼吸が琵琶湖では2年連続なかった。湖底の酸素量観測が始まって40年超で、初めてのことだ。だがこの冬、3年ぶりに確認された。2月の記者会見で三日月大造(みかづきたいぞう)滋賀県知事が「ほっとした」と述べたように、県民が固唾(かたず)をのみ見守っていたのだ▼水中の酸素不足は東京湾でもある。こちらは死滅したプランクトンが分解される過程で酸素が消費され起きる。この貧酸素水塊が表層に出てくると「青潮」と呼ばれ、魚や貝の大量死を招く▼この貧酸素化に対応するため国は、環境基準を導入した。琵琶湖と東京湾では「底層溶存酸素量」という基準の設定作業が進む。だが、琵琶湖では「もし基準が守れなければどうするのか」という根源的な問題は残ったままだ▼人は息を深く吸うことで、落ち着きを少し取り戻す。深呼吸は自然にとっても必要なことだ。だからこそ、温暖化による不可逆的な影響は避けねばならない。