紫や緑、薄紅など色とりどりで背丈が違う稲穂が頭(こうべ)を垂れている。上三川町、農業上野長一(うえのちょういち)さん(69)の名刺は、多種類の稲が混植された田んぼの写真を使っている▼1986年頃から「自然農」の取り組みを始め、92年には全部の田で無農薬・無化学肥料の稲作りに転換した。生産した米は「安心でおいしく食べられる」と評判を呼び、県内外の顧客に直接販売している▼特筆すべきは「いろいろ米(まい)」の栽培だ。自然農の稲作りで知り合った人たちから、赤米や黒米、緑米などの種もみをもらったのをきっかけに、収集品種は500種を超えた。毎年数十種を混種・混植し、一斉に刈り取って販売する▼炊き上がりは赤飯のようで、食べると少しもちもちして香ばしい。雑穀米とは違った食感が楽しめる。毎月顧客に米を送る際には、季節ごとの田んぼの風景や農作業の様子をつづった手書きの手紙を同封する。25年間で300回を超した▼町内の三つの小学校で総合学習で稲作について教えている。米へのこだわりと情熱は人後に落ちない。妻の礼子(れいこ)さんは愛情を込めて夫を「田んぼバカ」と表現する▼米作りの多様性について豊かな示唆を与えてくれるとして先ごろ「第44回山崎記念農業賞」を受賞。自然の摂理に逆らわない農法が評価された。春が訪れ、田んぼとの対話は本格化する。