昭和を代表する作家の一人の水上勉(みずかみつとむ)さんは生前、桜をこよなく愛した。美しい庭で知られる宇都宮中央女子高の門の先に「土くれの野に生きて花も実もあり」という自筆の碑が立つ▼脚光を浴びる人はほんの一握り。多くは平凡で堅実な一生を終えるが、そんな人々によって日々の平和は保たれ、人生に咲く花は美しく、実は大きな喜びをもたらす-。1978年、創立50年で講演した記念に建てられた。心に染みる言葉だ▼講演は桜が縁となった。その数年前、自宅にある自慢の桜の樹勢が衰え「枝をあげるから誰か育てて」と文芸誌に書いた。同校の教諭だった高松祐一(たかまつゆういち)さん(83)が家を訪ねて譲り受け、校庭に植え「水上太白(たいはく)桜」と名付けた▼それから半世紀。ソメイヨシノの後に毎年、白い大輪の花を咲かせ、少女たちの成長を見守ってきた。同校は来春、男女共学校に生まれ変わる▼校庭も大掛かりな改修が予定され、伐採は避けられそうにない。「時代の流れ」。退職後も手入れを続けてきた高松さんは理解を示すが、寂しさも漂う▼移植した枝が立派な木になったように、再び枝からよみがえらせることはできないかと、高松さんは願う。共学になってもこれまで同様、しなやかで強い心を持った生徒が育まれる姿を桜に見せたい。かなうことを水上さんも望んでいるだろう。