栃木県で28、29の両日に実施される東京五輪聖火リレーのスタートまで1週間となった。57年前の前回は県民が熱狂とともに沿道を埋めたが、今回は新型コロナウイルス感染防止のため、インターネット中継の視聴が推奨され、多くの自治体職員が密集の回避を呼び掛ける厳戒のリレーとなりそうだ。合言葉は「いかに聖火を中断せずにつなぐか」。祭典の高揚感は少なく、関係者は複雑な思いで最終準備に追われている。
「この2カ所で検温です」「2千人の想定だった入場者は事前申込制の330人となります」。15日午後、リレー最終地点で聖火到着を祝う「セレブレーション」会場となる県庁前広場では、県担当者が現地確認を行っていた。「可能な対策は全てやりましょう」
大会組織委員会や県、聖火が通過する16市町の最優先は、リレーの盛り上げより新型コロナ対策だ。県民にはネットのライブ中継での視聴を呼び掛け、沿道での観覧は居住地に近い市町とするよう求めている。
県と市町は沿道対策として、職員や制服警備員ら2日間で延べ約6千人を動員し、密集の回避を訴える。多くの観覧客の肩が触れ合ったり、複数列に重なり合ったりする「過度な密集」が発生した場合、リレー中断の可能性がある。
関係者が神経をとがらせているのは、皮肉にも本県の目玉だった茂木町でのSLとの並走や、栃木市での遊覧船の運航といった注目スポットだ。
茂木町は周辺の高台を封鎖し、栃木市は巴波川沿い約150メートルの入場を事前申込制とした。それでも担当者は「当日はどの程度の観覧客が来るのか読めない」と不安を募らせる。関連セレモニーは全て事前申込制となり、10市町が予定している聖火を使ったイベント「ミニセレブレーション」は4市町が無観客とした。
「うちでリレーが中断したら申し訳ない」。市町の担当者はそんなプレッシャーにさらされている。ある担当者は「本来の趣旨から外れ、魅力発信もできない。いったい何のためのリレーなのか」とこぼした。
県とちぎブランド戦略室の川又修市(かわまたしゅういち)室長は「今回は県民に安全安心の下でリレーを見守ってもらい、次の群馬県に何事もなく届けることが第一。東京まで無事につなぐことが結果的に大会への理解促進につながるのでは」と話した。