童謡「あの子はたあれ」には独特の味がある。懐かしい故郷の思い出を夕暮れ時、遠目に見た在りし日の幼なじみたちの顔に重ね「あの子はたあれ、たれでしょね」と歌い始める▼近くの相手に問い掛ける形式で歌は進む。話題は薄暗い中、遠くに見える知り合いたちは誰かということ。みよちゃん、けんちゃん、小僧さんとそれぞれ「じゃないでしょか」と推測し、相手の同意を促して終わる▼「じゃないでしょうか」は菅義偉(すがよしひで)首相もよく使う。新型コロナ緊急事態宣言の10都府県中6府県での解除を決めた後、「ぶら下がり取材」では特に顕著だった。解除判断の理由などを追及され「必要なことには答えているんじゃないでしょうか」などと13回も連発した▼本心では「~に決まってるだろうが! 分かりきったことを聞くな!」とぶちまけたいところを、あえてソフトな返答にし、いら立ちを隠そうと努めたのだろう▼だが好意的に受け止められたかは疑問だ。根拠が曖昧なままで推測、仮説の域を出ないのに同意を迫られ、強引に言いくるめられる感じを受けたのではないか▼童謡は最後に「お月さんの笑い顔」しか見えなくなる。首相が国民への説明責任を怠るのは、国民の負託を受ける最高責任者の顔を自ら宵闇に隠すに等しい。「責任者はたあれ」と問われるようでは困る。