新型コロナウイルスに感染した体験を振り返り、「差別や偏見のない社会になってほしい」と語る男性=2月上旬、宇都宮市

 「感染者は罪人ではない。だから責めないで」。新型コロナウイルスに感染し、先月退院した宇都宮市の50代の飲食店経営男性は、生きづらさと重圧を感じているという。男性は陽性判明後、すぐに店のホームページ上などで経緯を報告した。一方で「一部の心ない人の標的にはなりたくない」と下野新聞の紙面上では匿名を希望した。理不尽な誹謗(ひぼう)中傷が今なお残る中、差別や偏見のない社会の実現を願った。

 男性は1月7日に38.4度の発熱があり、自費でPCR検査を受けた。年末年始は体調を崩しやすく、「いつもの風邪」程度に思っていた。しかし翌日にかかりつけ医から伝えられた結果は「陽性」。感染経路は分かっていない。

 常連や知人の顔が浮かび、「心配を掛けまい」と会員制交流サイト(SNS)や電話などでもすぐに経緯を伝えた。症状は軽度。自宅療養を経て13日から約1週間の入院生活に入った。

 入院時には病院の裏口で「死体袋のような袋」に入れられ、車いすで病室まで運ばれた。入院生活はとにかく「退屈だった」。数少ない楽しみは、読書や同室の患者との会話。ある会社員は「職場から『感染は絶対に公言するな』とかん口令が敷かれている」と話していた。感染者の肩身の狭さを思い知った。

 19日の退院日は、厳重だった入院時とは対照的で、一般外来の患者の前を通った。「ついさっきまでコロナ病棟にいたのに。あまりのあっけなさに驚いた」と率直に打ち明ける。

 店のSNSには常連から「勇気ある公表」「営業再開を待っています」とエールが相次いだ。「常連は差別などない人ばかり。信頼している」と言い切る。

 一方でスタッフの感染をひた隠しにしている市内の飲食店も知っているという。客商売をしていれば隠したくなる気持ちは「痛いほど分かる」。社会にはいまだに誹謗中傷が存在するからだ。

 男性は「隠せば感染がさらに拡大する可能性もある。公表するのは飲食店側の責任」と考える。ただ、「うちの店を知らない不特定多数の人にまで感染を伝えるのは今はまだ怖い」と複雑な胸中も語る。

 「もうコロナは身近にある。感染したからといって責められない。そう誰もが思う世の中になってほしい」と願っている。