菅義偉(すがよしひで)首相は、放送事業会社勤務の長男が放送行政を所管する総務省の幹部を接待した問題で「私と長男は別人格」などとして国会で事実関係の説明を拒み続けている▼問答無用の言動を続ける首相には実は「お手本」がある。「必読書」に関する雑誌インタビューでパウエル元米国務長官の著書「リーダーを目指す人の心得」を挙げている▼官房長官時代を振り返り「パウエルさんが気付いたのが『記者には質問する権利があるが、私には答えない権利がある』ということ。そう思ったら楽になったとありました。その言葉を読んだ私も気が楽になった」と述べた▼パウエル氏が書いたのは、湾岸戦争中、攻撃準備の遅れを会見で不用意に漏らした将校を注意した経緯。パウエル氏は「記者は質問を選べる。君は答えを選べる。答えたくない質問には答えなくていい」と諭したという▼兵士の命を危険にさらし国益を損ねるような情報開示は避けよ、と戦争中の「守秘義務」を強調する趣旨だった。これを首相は「答えない権利」と解釈したようだ▼ちなみにパウエル氏の本には落ち込む将校を慰めたとはあるが「そう思ったら楽になった」の記述はない。すると「読んだ私も楽になった」は誤解に基づく自己暗示か。首相は「答えない権利」にすがるのをやめ説明責任に目覚めるべきだ。