NHK大河ドラマ「青天を衝(つ)け」の放映が始まった。主人公で「日本資本主義の父」と呼ばれる実業家渋沢栄一(しぶさわえいいち)は、500以上の企業を育て、600もの社会事業に携わったことで知られる▼県内では、後にJR日光線となる鉄道の敷設などさまざまな事業に関わったと小社刊の「とちぎに生きる渋沢栄一」にある。本県でも多大な足跡を残したことが分かる▼あまり知られていない側面もある。渡良瀬川に垂れ流された鉱毒によって流域の多くの住民が苦しんだ足尾鉱毒事件で、元凶となる足尾銅山の経営にも名を連ねた▼事件研究者で茂木町出身の赤上剛(あかがみたけし)さん(80)によれば、渋沢は経営者の古河市兵衛(ふるかわいちべえ)と深い信頼で結ばれ、銅山買収などの資金援助だけでなく、一時は共同経営者として参画。事業が軌道に乗り退いたが、その頃は下流で被害が頻発し始めた時期でもあった▼当時の新聞は被害を大きく取り上げ、知らなかったとは考えにくい。だが赤上さんが調べた限り、事件に言及したり、救済事業を行ったりしたと記した文献はないという▼公益を重視し、真の利益は倫理ある経済活動から得られるとした「道徳経済合一説」を唱えた渋沢には、日本の公害問題の原点といわれる足尾鉱毒事件の被害民の窮状はどう映っていたのか。注目が集まる今年、答えが見つかるといいのだが。