コロナ後を見据え新商品開発に力を注ぐ黒坂鍍金工業所=8日午前、小山市外城

児童養護施設の中で遊ぶ子どもたち=5日午後、さくら市喜連川

コロナ後を見据え新商品開発に力を注ぐ黒坂鍍金工業所=8日午前、小山市外城 児童養護施設の中で遊ぶ子どもたち=5日午後、さくら市喜連川

 県が9日発表した2021年度一般会計当初予算案には、私たちの暮らしに直結する諸課題への対応策が数多く盛り込まれた。逼迫(ひっぱく)する医療提供体制の拡充、疲弊する県内経済の支援など、新型コロナウイルス感染症対策は、いずれも待ったなし。里親の育成に向けた支援機関を設け家庭での養育の充実を図るほか、水害の頻発化を踏まえ田んぼダムの実証実験にも取り組む。

■医療支援■ 次の「波」へ体制強化 確保病床の空きを補償

 「国のシナリオに基づいた病床数は確保できていた。だが実際は、それを越える感染拡大が起きてしまった」。県内で新型コロナウイルス新規感染者が急増し、医療提供体制が逼迫(ひっぱく)した「第3波」。県保健福祉部の担当者はその内幕を明かす。

 シナリオとは昨春、国が識者の意見を基に示した新型コロナの「流行シナリオ」を指す。県はこれに基づき「感染拡大のピーク時」の1日最大の新規感染者数を40人、最大入院患者数を259人、確保すべき病床数を311床と推計。医療機関に協力を求め、コロナ禍前は40床だった対応病床を、昨秋時点で313床に増やした。

 ところがクラスター(感染者集団)の相次ぐ発生もあり、県内の新規感染者数は11月下旬から爆発的に増加。12月29日は83人、1月8日には過去最多の150人と推計を大きく上回る事態となり、医療現場への負荷が急激に高まった。

 「今は入院者数も減り、院内は落ち着きを取り戻しつつあるが、年末年始は新規受け入れが途切れなかった」。日光市民病院(日光市清滝安良沢町)の病院管理者、杉田義博(すぎたよしひろ)医師(55)は一時の状況を明かす。

 同病院の感染症対応病床はもともと4床だったが、県の要請で10床に増やした。中等症までの患者を受け入れる中、重症化リスクの高い高齢者の治療、手間が多い防護服の着脱、病床が複数のフロアにまたがることで複雑化する院内感染対策など、苦慮している点は多い。

 杉田医師は「一般診療との両立を考えると当院でさらなる病床増は困難」とした上で「回復期の患者を他院に転院できず、重症者の受け入れ病院が逼迫している。そうした負担を地域で分担する体制づくりが急がれるはずだ」と指摘する。

 県は新年度当初予算案に医療提供体制の確保、検査体制充実に向けた事業費214億円を計上。うち7割超は、感染者受け入れのために一般病床の空きを確保した病院への空床補償が占める。

 県内の確保病床数は9日現在で計377床。2度目の緊急事態宣言を経て県内の新規感染者数は減少しているものの、次の「波」への備えは急務の一つ。県は国の新たなシナリオを待たず、引き続き病床や宿泊療養施設の確保、充実を図る。

■経営支援■ コロナ対策融資 新設

 「2、3年後を見据えて次の一手を打たなければ、いずれ押し寄せる大波にのまれる」

 小山市外城(とじょう)に主力工場を持つ金属・樹脂表面処理業「黒坂鍍金(めっき)工業所」(東京都)の黒坂猛史(くろさかたけし)社長(47)は危機感をあらわにする。

 新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、半年ほど前に自動車部品の受注が落ち込んだが、現在の業績は前年同時期とほぼ変わらない。ただ、バブル崩壊やリーマン・ショックなどが経営に打撃を与えたのはいずれも約3年後だった。

 同社は2020年度途中に新設された県ものづくり技術強化補助金「新型コロナ対策製品開発支援枠」の交付先となった。メッキ技術を活用し、抗ウイルス作用のある商品開発を目指す。「顧客開拓につなげ、3~5年後に社を支える商品に育てたい」と黒坂社長。

 県は同支援枠を含む補助金事業費として、21年度一般会計当初予算案に6700万円を盛り込んだ。県工業振興課は「コロナの収束が見通せない中で、新製品と新技術の開発に取り組む県内企業を引き続き支えたい」と強調した。

 県は21年度も新型コロナで経営に大きな影響を受けた中小企業の資金繰り支援を継続する。

 県制度融資「パワーアップ資金」(融資枠4千億円)と「緊急対策資金」(同400億円)は20年度限りで取り扱いが終わる。後継として、新たに「新型コロナウイルス感染症対策融資」(同700億円)を設ける。21年度予算案に212億1200万円を計上した。

 また、感染症対策や販路開拓に取り組む中小企業が対象の「再起支援融資」(同50億円)創設に向け、21年度予算案に事業費15億1500万円を予算化した。

 県経営支援課の担当者は「経営の安定だけでなく、新しい生活様式に沿った事業を軌道に乗せられるよう活用してほしい」と話した。

■里親支援■ 養育環境 充実に注力 新たに専門のセンター

 さくら市喜連川の児童養護施設「養徳園」の保育室。パズルやピアノで遊ぶ2人の男児は、無邪気な笑顔を浮かべる。

 虐待や貧困、事故-。さまざまな理由から家族と一緒に生活できず、こうした児童福祉施設で過ごす子どもたち。その子どもたちを家庭環境の下で養育するのが、里親制度だ。

 「特定の大人と一貫して関わり、家庭の中で育つことが子どもの発達に重要」。同園の総合施設長で、県児童養護施設等連絡協議会の福田雅章(ふくだまさあき)会長(59)は制度の意義を強調する。

 2019年度現在、県内の登録里親数は283人。しかし福田会長は「十分な数ではない」と話す。里親へ委託後にうまくいかず、子どもが施設に戻ってくるケースは後を絶たないという。「1人の子どもにつき、マッチングには10人の里親が必要だと言われている。今は子どもから見て選択肢が少ない状況」と明かす。

 里親制度の充実を図るため、県は21年度、里親養育支援機関「栃木フォスタリング・センター(仮称)」の開設を目指す。設置運営費や事業費として、同年度当初予算案に約3500万円を盛り込んだ。センターでは里親制度の普及啓発や研修の開催などを行い、質の高い里親養育を進める。

 現在の課題としては、里親のリクルートから研修、委託までの課程で、里親を支援する機関が異なることが挙げられる。センターには、里親をトータルで支援する役割も期待されているという。

 県の担当者は「まずは里親制度を広く知ってもらい、協力してもらえる人を掘り起こしたい」と話す。福田会長は「社会貢献の一つとして里親になって、地域の子育て支援に参画してほしい」と願った。

■水害対策 田んぼダムを遠隔管理 防災効果分析へ実証実験

 「下流で苦しんでいる方々がいる。上流のわれわれの協力が助けになれば」。2019年に起きた台風19号の甚大な被害を振り返り、栃木市土地改良区の野尻徳雄(のじりとくお)理事長(81)は力を込めた。

 豪雨の際に雨水を一時的にためる治水対策「田んぼダム」の整備が、県内自治体で広がっている。小山市や宇都宮市に続き、栃木市でも田植え前までの本格導入に向けて準備が進む。

 台風19号で同市は永野川や巴波(うずま)川などが氾濫や越水し、住家被害は県内最多の約8千棟に上った。同改良区は上流域にあり、地元農家の協力を得ながら約6ヘクタールに20基を設置する見通しという。

 田んぼダムは水田に専用の調整マスを取り付けるなどし、排水路や河川に流れる水量を抑えて水害を防ぐ。県内でいち早く導入した小山市の担当者は「河川改修に比べて時間も費用も大きくカットできる」と利点を説明する。

 降雨の状況によって柔軟に排水量を調整することで、効果は高まるとされる。一方で、個々の農家が排水管理を行うため、農家の負担は大きくなる。そこで県は21年度から、「スマート田んぼダム」の実証事業に乗り出す。国の補助事業で、当初予算案に2100万円を計上した。

 スマートフォンやパソコンから、広範囲の農地で一斉に給排水を遠隔操作できる仕組み。防災上の効果を高める手法を国が分析し、全国展開を目指すという。

 対象自治体を選定中で、県農地整備課は「防災上だけでなく、給水でも活用でき営農上の効果も期待できる」と説明。「費用面など課題も含めて検証し、将来の活用方法を模索したい」とした。