松平健(まつだいらけん)さんらがテレビで演じた「遠山の金さん」のモデル、江戸町奉行の遠山景元(とおやまかげもと)は、老中の水野忠邦が質素倹約を求め、ぜいたくや風俗の取り締まりに乗り出した「天保の改革」に真っ向からたてついた▼そうしたのは「『下情に通じていた』、つまり現場の担当者として江戸の実情をよく知っていたからである」という(藤田覚(ふじたさとる)東大名誉教授「遠山金四郎の時代」より)▼察庁と法務省の要職を歴任し「ミスター検察」と呼ばれた元検事総長の伊藤栄樹(いとうしげき)は、遠山の金さんが大好きだった。著書の「だまされる検事」では、全国民が被害者の「目に見えない犯罪」摘発に必要なことを記している▼「検事がいつも庶民の心を失わないことである。庶民がその素朴な正義感で、何に憤り、何を巨悪と認識するかを自分の体で感ずることができねばならぬ。検事は、いつの世でも、“遠山の金さん”でありつづけなくてはいけない」▼伊藤が亡くなって30年余り。後輩たちは、安倍晋三(あべしんぞう)後援会が「桜を見る会」前日に主催した夕食会を巡る政治資金規正法違反事件で、安倍前首相を不起訴処分とした▼吉川貴盛(よしかわたかもり)元農相を在宅起訴した事件では、刑の重い受託収賄ではなく、単純収賄の罪を適用した。どちらも金さんのように「庶民の素朴な正義感」を体で感じてやったと胸を張れるだろうか。