リモート取材で、産後うつの経験を語る小林淳一さん(左)と翼さん=22日午前

 現在、男性が育児休暇を取得しやすくするための政策が国で検討され、男性が積極的に育児できる環境づくりが進んでいる。一方で、出産をきっかけに陥りやすい「産後うつ」は、家事と仕事の両立の難しさから男性が発症することもある。コロナ禍による収入減などストレス要因は増えており、獨協医科大の古郡規雄(ふるこおりのりお)准教授(精神神経医学)は「厳しい現状を踏まえ、周産期は男性にも心理的な支援が必要」と指摘。社会全体へ男性の産後うつへの理解を求めている。

 「いってきます。今日、俺は電車に…」。

 2012年夏、会社へ向かおうとしていた小林淳一(こばやしじゅんいち)さん(45)は、玄関の扉の前で静かにつぶやいた。妻の翼(つばさ)さん(39)は「様子がおかしい」とすぐ異変に気付いた。精神科の病院へ連れて行くと、淳一さんは「仕事と育児によるうつ病」の診断を受けたという。

 長女の誕生後、翼さんは連日の夜泣きと残業に体が付いていかず、体調を崩して会社を退職。淳一さんは「家計を1人で支えなくてはならなくなり、経済的不安を感じた」と振り返る。

 その後も体調の悪い翼さんのために早く帰宅し育児をしていたが、上司の理解が得られず長時間残業も少なくなかった。次第に将来的な経済面の不安や仕事のプレッシャーで眠れなくなり、自死も考えたという。最終的に会社を退職し、都内から地元小山市へ引っ越すことを決意した。

 今回、小林さん夫妻はコロナ禍でつらい思いをしている人のために取材に応じてくれたが、日本人男性の産後うつの実態は、今もあまり分かっていない。認知度の低さから妻の妊娠と夫自身の不調が結び付かず、受診の際に「個人の問題」として申告してしまうことも要因の一つとされる。

 古郡准教授らは、妊娠中か出産後1年以内のパートナーがいる男性が、うつ状態かどうかを調べた06~18年の論文などを分析。産前産後のパートナーがいる男性の約1割がうつ状態に陥っていたという。

 古郡准教授は「経済的な問題や家庭と仕事との板挟みで悩む男性は少なくない」とし「潜在的な患者はいるだろう」と推測する。

 昨今はコロナ禍で、収入が減少したり、生活環境が変化したりする家庭もあり、育児をする男性にとって大きなストレスとなる可能性がある。古郡准教授は「妊婦健診や乳児健診などで男性の精神状態を確認する機会をつくることが、男性の産後うつの早期発見につながる」と強調した。