人生の軌跡を振り返ると、誰にでも分岐点がある。安倍晋三(あべしんぞう)首相にとって、宰相ポストへの転機は2002年9月、当時の小泉純一郎(こいずみじゅんいちろう)首相の北朝鮮訪問に官房副長官として同行した時だろう▼訪朝後、日本にいったん帰国した5人の日本人拉致被害者を北朝鮮の要求に沿って、彼国(かのくに)へ帰すかどうかを巡り、政府内は対立した。安倍氏はここで屈したら二度と戻れないと判断し「国家の意思として帰さない」と主張。決然とした姿勢に人気が集まった▼いわば拉致問題は首相への道の原点と言える。この間、安倍氏は最初の政権の挫折を経て再登板を果たす。一貫して拉致問題を「最重要課題」に掲げ、自らの政治家人生に重ね合わせてきた▼けれど、安倍氏が官房副長官の時に5人が帰国した後、拉致被害者は一人も取り戻せていない。最近では森友、加計学園問題で内閣支持率も振るわない▼そこに米朝首脳会談が降って湧く。共同声明には、朝鮮半島の完全な非核化と北朝鮮の体制保証が盛り込まれたものの、拉致問題の記述は見当たらない。しかも北朝鮮は「解決済み」との立場を崩さない▼9月には自民党総裁選が控える。安倍氏は拉致問題の解決に向け、3選へ意欲を示す。期待が高まるほど、失望の反動も大きい。安倍氏は原点回帰の正念場を乗り切ることができるのだろうか。