新型コロナウイルスのような動物起源の感染症の封じ込めに世界中が知恵を絞る中、日本ではあまり聞かれないが、多くの国で頻繁に語られるキーワードがある。それは「一つの健康」を意味する「ワンヘルス」という言葉だ▼人間も家畜も、そして野生生物がいる環境も同じように健康であることが大切で、この三つを一つのものとして考える必要がある、という意味である▼人や家畜が本来は野生生物のものだった領分にどんどん入り込むようになった。動物由来の感染症が近年、急増しているし、家畜を介して人間に重大な感染症を引き起こした例もある▼逆に、人間の病気に感染して多くのチンパンジーが死んだこともある。エチオピアオオカミは、飼い犬が持っていた狂犬病などに感染し、数が減ってしまった。環境や野生生物の側からワンヘルスを考えるときに重要なのは、野生生物のための場所を確保する自然保護区を作ることだ▼「生物多様性」という言葉を提唱した研究者の一人である米国のエドワード・ウィルソン博士は新著の中で、地球上の半分を自然保護区にすることで、人間も野生生物も健康になれると訴えている▼一足飛びにとはいかなくとも、人間が少し退き、野生生物に彼らの領分を返してやることは、ワンヘルスを実現する上で意味のある行動だろう。