東日本大震災で甚大な被害を受けた太平洋沿岸部の宮城県気仙沼市。日本有数の漁業で知られるこの地では、大正時代から連綿と続く伝統たこの数々を大空へ揚げる「天旗(てんばた)祭り」が恒例行事だ▼震災後は毎年5月に開いてきたが、2020年は新型コロナウイルス感染症の影響で中止に。イベントを主催する「気仙沼凧の会」の加藤斉克(かとう・まさかつ)会長は「21年は何としても実施したい」と語る▼気仙沼では、海から昇る朝日を描いた「日の出凧」、魚問屋や水産加工場が屋号を染め抜いた「屋号凧」などが今に伝わる。この伝統を観光資源にしようと、1988年から天旗祭りを気仙沼の港で催してきた▼ところが、大震災と津波で港やその周辺は壊滅的になり、開催場所を高台にある学校のグラウンドへ移した。そして、伝統たこを連たこにして、空からメッセージを送る工夫も凝らした。復興への思いが連たこになって、宙を舞う▼「たこ揚げは昔を懐かしむだけではありません。日常の生活であまり意識しない空を見上げることで、雲の形や動き、太陽の光や風の変化を肌で直接感じ取れるのが魅力です」と加藤さん▼21年は大震災からちょうど10年の節目である。今はコロナ禍が国内外を覆っている。けれど、移ろいゆく空の表情のように、その苦境から抜け出せる日がきっと訪れるはずだ。