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2019年の台風19号による水害

 2011年3月に発生した東日本大震災をはじめ、日本各地で毎年、大規模な災害が起きています。栃木県内でも、昨年10月の台風19号による大規模な水害は記憶に新しいところです。そこで、栃木県の災害対応の中心となる栃木県県民生活部松村誠危機管理監、県内外で防災講座を展開するNPO法人栃木県防災士会の稲葉茂理事長、「JT SDGs貢献プロジェクト」において、「災害分野」などの活動を支援している日本たばこ産業宇都宮第二支店の武井京一支店長との座談会を実施し、栃木県の防災減災の現状と今後の課題などについて話し合ってもらいました。司会は、下野新聞社論説委員長の鈴木憲一。(企画・制作 下野新聞社営業局)

■出席者■

 
  • 日本たばこ産業宇都宮第二支店支店長 武井 京一
  • 栃木県県民生活部危機管理監 松村 誠
  • NPO法人栃木県防災士会理事長 稲葉 茂
  • 司会・下野新聞社論説委員長 鈴木 憲一

 

ーー 現状 ーー

防災意識の高まり顕著

 鈴木憲一 東日本大震災の発生から来年で10年になります。まず当時の被害状況についてお聞かせください。

松村誠氏

 松村誠氏 この地震は国内観測史上最大のマグニチュード9・0を記録しており、その揺れとその後の大津波により東北・関東地方を中心に災害関連死を含め1万9700人超の死者、2500人超の行方不明者、住家の全半壊は40万5千棟弱という大惨事でした。栃木県でも宇都宮市など5市町で震度6強、20市町で震度5弱以上を観測しており、4人が亡くなり、133人が負傷しました。住家の全半壊は2300棟以上で、電気、水道などのライフライン、道路、学校なども被害を受けました。また、この地震で福島第一原子力発電所の事故が発生し、県外の約3千人が本県に長期避難を余儀なくされました。

 

 鈴木 災害当時、日本たばこ産業ではどのような状況だったのでしょうか。

武井京一氏

 武井京一氏 JTグループでは、地震発生直後、社長を本部長とする災害対策本部を速やかに立ち上げ、社員・家族の安否及び事業所の被災状況確認、事業の継続と復旧、被災地への支援を取り組みの大きな柱としました。

 まず、震災発生直後の最優先課題として、社員・家族の安否及び事業所の被災状況確認にJTグループ全体で取り組み、早期にほぼ全員の安否を確認することができました。

 事業所では、国内たばこ事業の各拠点が特に深刻な被害を受けました。具体的には、たばこ製造6工場のうち2工場が被災したほか、原材料の製造拠点も甚大な被害を受けており、いずれも操業不可能な状態となりました。製造できる数量が限られている中でも、安定的かつ確実に全国に商品をお届けするために一時的にたばこの供給を全面的に停止するという、1985年の会社化以降初めてとなる苦渋の決断をしました。

 国内で最大のたばこ工場である北関東工場(宇都宮市)は建屋や製造ラインの損傷が激しかったです。また、葉たばこ研究所では、建物外壁や床にひび割れ、配管ゆるみなどが発生したため、復旧工事を実施しましたが修復には約半年を要しました。さらに宇都宮支店では、4階の一部天井パネルが落下し、空調の破損により水漏れが発生。また、壁紙の亀裂も数カ所で確認されました。

 鈴木 東日本大震災は、栃木県民がこれまで経験したことのない規模の災害でした。この東日本大震災からどのような教訓を得たのでしょうか。

 松村氏 ハード対策のみならず、土地利用計画、防災教育、訓練などの強化の必要性が教訓として得られました。住民同士、地域内の助け合いや迅速かつ正確な情報収集とその伝達・共有、強固なネットワークシステムの構築、備蓄の充実、医療サイドとの連携なども東日本大震災を契機として見直しがされました。

稲葉茂氏

 稲葉茂氏 栃木県内でも、災害時の「自助」「共助」「公助」の対策に関する意識が高まりました。これは、栃木県内の防災士の認証者数の増加にも表れています。防災士の制度は阪神淡路大震災を契機にスタートしました。災害が発生してから3日間、72時間以内に被災者を救助できるかどうかが生存率に大きく影響するとされており、この3日間のうちに地域の人々が互いに助け合えるかが鍵となります。実際、阪神淡路大震災では約8割が近所の人たちにより救出されています。過去に大災害を経験した地域には防災士が多いという傾向がありますが、栃木県も東日本大震災を契機に9年間で約5倍に増えました。近年では女性の防災士の増加もみられます。

 鈴木 昨年は台風19号による被害が県内でもありました。水害の怖さとはどのような点でしょうか。 

 松村氏 水害は必ずしも大量の雨が降っているところが大きな被害の発生地になるとは限りません。河川の上流地域で降った大量の雨が河川に集まり、下流で急激に増水しますが、川下の住民にとってはなかなか災害や被害を実感できず、避難スイッチが入らない現象が生じます。このため、避難に遅れが出たり、浸水被害の被害拡大につながってしまいます。

 

ーー 対策 ーー

自分の命は自分で守る

 鈴木 東日本大震災や台風19号の被害を契機に防災・減災という考え方が広がりました。稲葉理事長に防災士の役割についてお聞きします。

 稲葉氏 防災士の原点は自分の命を自分で守ることです。自分の命があって初めて何かができるのです。防災士の活動は三つの状況で異なります。まず平常時ですが、自分の身の回りである家庭、職場、地域における防災意識の啓発活動、訓練・研修などの実施が大切です。災害時には消防や警察、自衛隊などの公的支援が到着するまで、被害の軽減を図り、消火活動や救出救助、避難誘導などを行います。そして、災害発生後は、自治体、防災関係機関、NPOなどと連携・協働して被災者支援に当たります。

 鈴木 私たちが日常から災害に備えるに当たり、どういった防災の取り組みが必要でしょうか。家庭や企業で取り組むべきことは何でしょうか。

 稲葉氏 何より命を守るための行動・備えを日常から行うことです。例えば、地震防災では、家が壊れない、強固な地盤と建物の耐震性の有無をしっかりと確認してください。実際、自宅の耐震性が生死を分けたケースが大多数です。家屋が倒壊すると、死亡やけがを招くだけでなく、火災が発生しやすくなったり、道路をふさぎ救助活動の妨げになったりします。その次に、震動で家具が転倒しないかどうか点検してください。地震時のけがの最大の原因は、家具類の転倒や落下によるものです。

 企業の取り組みに関しては、日本における防災分野の最上位計画として、中央防災会議が策定する「防災基本計画」があります。その中で「国民の防災活動の環境整備」の一つとして「企業防災の促進」を掲げており、企業の取り組むべき事項と、企業の取り組みに対する行政側の支援活動を明示しています。災害時に企業の果たす役割は、「生命の安全確保」「二次災害の防止」「事業の継続」「地域貢献・地域との共生」であり、それらを十分に認識することです。

 鈴木 日本たばこ産業としては、災害への備えにどのように取り組まれていますか。

 武井氏 社員の安全確認のため、スマートフォンなどを活用した安否確認システムを導入し、災害発生時に迅速な確認が取れる仕組みを取り入れています。また、全国全ての拠点で災害時備蓄品として災害対応品(含むアレルギー対応食品)・パンデミック対応品約20種類を3日分準備し、災害時の初期的孤立への備えを図っています。備蓄品については、年1回備蓄品の品質確認を行い、必要に応じて更新・管理を実施しています。備蓄品の中で水、食料、防寒具といった生活必需品及び作業用物品は、災害発生時における事業所の帰宅困難者、復旧作業従事者への支援物資として提供しています。

 さらにBCPの観点で、北関東工場では、広域備蓄品を保管。葉たばこ研究所では、葉たばこの種子について、全種類を別の場所でも分散して保管しています。

 鈴木 行政としては、災害における危機管理にどのような取り組みをされていますか。

 松村氏 栃木県地域防災計画を策定し、さまざまな災害への備えとともに、災害が発生した場合における県や市町、防災関係機関などが行う業務や、その役割分担を定めています。また、被災市町への県職員派遣や備蓄における市町のバックアップ、逃げ遅れゼロを目的としたリーフレットの配布などに取り組んでいます。

 

ーー 支援 ーー

マンパワー、お金が重要

鈴木憲一

 鈴木 自然災害は予期しないタイミングで起きるものです。普段から防災への備えを行うとともに、災害が起きた際の心構えも必要になります。日常からできる災害発生時の心構えを教えてください。

 稲葉氏 日常から、自分の住んでいる地域の被害想定を知ることが重要です。地震や津波の予測、洪水ハザードマップ、土砂災害の危険個所などの把握です。これは、各行政機関が発表している資料で確認することができます。また、災害発生時に自身がどう行動するのかを事前に時系列で整理する「マイ・タイムライン」を作成しておくことをお勧めします。自身の行動指標を持つことが早めの避難に繋がります。

 避難ということでいえば、栃木県の防災アンケートでは災害時に「避難準備をしたが避難はしなかった」「特に何もしなかった」という人が全体の6割以上になります。避難しなくても大丈夫と判断した人が大多数です。

 避難所と避難場所の違いについても、知っていてほしいと思います。避難所とは、災害で住宅を失うなど、被害を受けた人や被害を受ける可能性がある人が一定期間、避難生活をする場所のこと。具体的な施設としては、小・中学校や公民館などの公共施設です。一方、避難場所は、災害から身を守るために避難する場所です。一時避難場所と広域避難場所があります。いずれにしても命を守る行動である避難への認識を強く持ってほしいと思います。

 鈴木 武井支店長は、普段どのような心構えをお持ちでしょうか。

 武井氏 JTグループでは年に数回、大規模災害を想定して、スマートフォンを活用した安否確認の訓練をしています。また、年1回の防災訓練を拠点ごとに実施しているほか、北関東工場では清原工業団地管理協会主催による団地内加盟企業による防災訓練にも参加しています。このような取り組みによって、災害発生時にも、社員それぞれが適切な行動をとることができると考えています。

 鈴木 自然災害への関心を高めることも重要な心構えだと思います。今後、栃木県内で予期される災害にはどのようなものがありますか。

 松村氏 スーパー台風級の台風の増加や線状降水帯の発生の増加などの現状を踏まえると、さまざまな対策を講じる必要があります。地震については、県内の活断層が引き起こす地震の発生確率は低いですが、日頃からの備えは欠かせないと考えます。

 鈴木 実際に自然災害が発生した際に求められる支援とは、どのようなものでしょうか。

 稲葉氏 何よりも、まずはマンパワーです。過去のボランティア活動の経験から、復旧には多くの人手(マンパワー)が必要になることが明らかです。それとお金です。送られてきた救援物資が、質や量の問題で「第2の災害」と化すこともあります。実際に、物よりお金が必要だったという被災者の声もあります。

 鈴木 実際、日本たばこ産業では災害発生時の緊急支援もされています。具体的な支援について教えてください。

 武井氏 台風19号の際には、栃木県に災害義捐金として200万円の寄付を行いました。また、東日本大震災の際には、緊急支援のほか、中長期的な復興支援も行っています。例えば「東日本大震災復興支援 JT NPO応援プロジェクト」として、東日本大震災で被災した岩手、宮城、福島の各県の復興・再生・活性化の一助となることを目指し、被災地の人々のさまざまな要望に応えている民間非営利組織がより安定的に活動が行えるよう、支援・応援の活動をしています。

 また、稲葉理事長がおっしゃったマンパワーについてですが、JTグループには「ボランティア休暇」の制度があります。地震、暴風雨などによる相当規模の災害時に、被災地または周辺地域での支援活動のために、1年間で10日を上限として、休暇を取得することができます。災害時の復旧に関する支援においては、実状を踏まえ、社員と事業所の安全確保を図った上で、できる限り地域の皆さまに貢献できるよう、協力を惜しまず支援して参りたいと考えています。

 鈴木 災害支援ならではの難しさもあるかと思います。支援を進めるに当たってのポイントは何ですか。

 松村氏 正確な情報の収集とそれに基づく迅速な判断、国、市町、防災関係機関との情報共有と連携が重要です。また、被災市町に対する人的支援と緊急消防援助隊、自衛隊の早期派遣要請、避難所における避難者、避難所外避難者に対する支援物資の提供などもポイントとなります。

 

ーー 提言 ーー

想像上回る災害発生も

 鈴木 座談会の総括として、県民読者へのメッセージをお願いいたします。 

 松村氏 いつ、どこで起こるかわからない災害から、ご自分やご家族を守るための備えや行動をお願いしています。具体的には浸水想定区域、土砂災害警戒区域など、地域や自宅周辺の災害リスクを知ってください。そして、災害発生時をイメージし、あらかじめ避難先と避難経路の確認を行ってください。また、平素から気象情報、避難情報の意味を理解し、台風情報等を積極的に収集するなどし、食料や飲料水の備蓄、家屋内の家具等の転倒防止措置を行ってください。噂や曖昧な情報をうのみにせず、新聞、ラジオ、テレビなどで正確な情報を入手し、行政の避難情報に注意を払い、適切な行動をすることを心掛けてください。

 稲葉氏 行政側への要望として、避難を促すための仕組みづくりをして欲しいと思います。有識者から「人は情報では逃げない。正常性バイアスは人間の本能で克服は難しい」「情報の精度が上がっても避難行動のきっかけにはならない」といった声も出ています。こういった状況を改善するためにも、防災教育において「避難の重要性」と「避難のタイミングの意思決定」について学ぶ機会を作って欲しいと思います。

 武井氏 災害が発生しないことを願いますが、今後も地球温暖化が進むと、想像を上回る災害が発生する可能性があります。たばこ葉の生産から研究、製造、受注、流通、販売と、この栃木県は全国でも唯一たばこ関連施設がすべて整っており、長い歴史があります。万が一災害が発生した場合は、会社としても個人としても、地域のみなさんとともに、栃木県のために手助けが出来れば良いと思っています。

 鈴木 本日はありがとうございました。