作家の命日をペンネームや代表作などにちなんで文学忌とする。例えば司馬遼太郎(しばりょうたろう)の菜の花忌(2月12日)、芥川龍之介(あくたがわりゅうのすけ)の河童(かっぱ)忌(7月24日)、正岡子規(まさおかしき)の糸瓜(へちま)忌(9月19日)がある▼負けず劣らず知られているのが太宰治(だざいおさむ)の桜桃忌ではないか。この時季を彩るサクランボと晩年の短編「桜桃」にかけた。きのう19日は、入水自殺した太宰の亡きがらが発見されてから70年の節目に当たった▼若い頃、熱に浮かされたように太宰を読んだ。その表現の巧みさに舌を巻き、随所で心を打たれ、先を読み進めるのがもったいなく感じた▼宇都宮大国際学部の丁貴連(チョンキリョン)教授は韓国の出身で、比較文学を専攻する。大学4年で太宰をテーマとしたところ、指導教官に高く評価されたことが、日本文学研究に進む大きな転機になったという▼当時、韓国では全く無名だった太宰だが、「人間失格」の題名に引かれ、韓国文学との比較を試みた。今もことあるごとにページを開く大切な作品だそうだ。韓国では近年、ひそかな太宰ブームが起きているという。人間の内面を深くえぐった作風が、若い世代の心を捉えて離さないらしい▼「今の日本は文学をないがしろにし過ぎです」。丁さんは特に若者の本離れを憂慮する。混迷の時代にあるからこそ、太宰はもっと読まれるべきだ、との思いを強めている。