大正、昭和の浮世絵とも称される「新版画」のジャンルを築き、アップルの創業者スティーブ・ジョブズ氏がコレクターの一人だった川瀬巴水(かわせはすい)は、「昭和の広重」などとも呼ばれる▼日本各地を巡り、写生した絵を原画とした版画を600点以上発表した。日本的な美しい風景を叙情豊かに表現し、国内よりも海外での評価が高いという。1883(明治16)年に東京で生まれ、塩原温泉との縁がとりわけ深い▼5歳頃から夏になると、塩原で初の土産店を開いた伯母夫妻の元で過ごした。1918(大正7)年のデビュー作「塩原3部作」の解説で「塩原は私を非常にかわいがってくれました。版画の第一歩に塩原を選んだのは、私としては意義のあること」と語っている▼太平洋戦争中は妻と疎開し、東京から持参した版画を売ったり、肉筆画を注文に応じて描いたりして生計を立てた。戦後も3年近く滞在し、地域の人たちと濃密な関係を築いた▼塩原もの語り館展示コーナーで「巴水と塩原」が特集され、世界的な作家の活躍は塩原から始まったことが理解できる。塩原を題材とした作品は十数点に上り、観光客ではなく生活者の視線で捉えた▼今年の紅葉は台風で木々の葉が飛ぶこともなく、一気に冷え込んだため例年より美しいという。巴水の描いた紅葉と見比べるのも楽しい。