「とちおとめ」以外に育てている「とちあいか」の苗に咲いた花を見つめる嶋田さん=7日、足利市

 本県農業に甚大な被害をもたらした台風19号の直撃から、12日で1年がたつ。品目別で最も被害額が大きかったイチゴの生産者の中には今季、2年ぶりの収穫を目指す人たちがいる。足利市稲岡町、農業嶋田有希(しまだゆうき)さん(27)はその一人。「支えてくれた人たちに恩返しをしたい」と、再建したハウスで家族らと汗を流す。思いを込めて育てるイチゴの収穫はもうすぐだ。

 蒸し暑さが残る7日午前。嶋田さんは、「とちおとめ」を育てるハウス内で苗から古い葉を取り除く作業に精を出していた。「何としても立派なイチゴに育てたい」。今季に懸ける思いはひとしおだ。

 あの日、濁流がハウスをのみ込み、定植した全ての苗の収穫を諦めざるを得なくなった。両親の下で就農して、2年目に思いもよらない苦渋を味わった。失意の中にいた嶋田さんの背中を押したのは、泥かきに駆け付けた生産者仲間や近隣住民ら多くの人の支援だった。

 「下を向いてはいられない」。昨年11月から約半年間、外食チェーンの坂東太郎(茨城県古河市)が運営するイチゴ栽培のハウスでアルバイトをした。そこで学んだのが「高設栽培」の手法だ。人の腰ほどの高さで収穫するため、地面に畝を作って苗を植える土耕栽培に比べて浸水リスクが少ない点が魅力に映った。

 共にイチゴ栽培に取り組む父雅幸(まさゆき)さん(57)と相談し、再建したハウス16棟のうち10棟に高設栽培を取り入れた。肥料のやり方や温度管理など、これまでと異なり一からのスタートだったが、「順調に育っている」と安堵(あんど)する。今月下旬ごろから順次、収穫が始まる見込みだ。

 新たな試みは他にもある。アルバイト先の直売所での接客経験を生かそうと、今季から「とちおとめ」の直売やオンライン販売を始める予定だ。「これからの農業には新しい取り組みが必要になるはず。恐れずに挑戦したい」。被災から立ち直るその先を見据える。