台風19号で那珂川が氾濫し、大きな浸水被害をうけた那須烏山市下境地区。宮原地区とともに防災集団移転促進事業の実施が検討されている=2日午後1時45分、那須烏山市下境、小型無人機から

那須烏山市内の防災集団移転促進事業の候補地

台風19号で那珂川が氾濫し、大きな浸水被害をうけた那須烏山市下境地区。宮原地区とともに防災集団移転促進事業の実施が検討されている=2日午後1時45分、那須烏山市下境、小型無人機から 那須烏山市内の防災集団移転促進事業の候補地

 豪雨災害による浸水被害を防ぐため、那須烏山市が、被災した住居を集団で移転する「防災集団移転促進事業」の実施を検討していることが5日までに、市への取材で分かった。那珂川沿いの宮原、下境の両地区が候補に挙がっている。同事業を巡っては、茂木町も1月以降、那珂川沿いの被災地を対象に検討を進めている。昨年の台風19号が本県を直撃してからまもなく1年。激甚化する災害への備えとして、住民の「住まい方」にも変化を及ぼす動きが出始めている。

 那須烏山市は防災集団移転について、「選択肢の一つとして考えているが、何より住民の意向や同意が最重要。新型コロナの状況もみながら、説明会を開いて災害のリスクなどを丁寧に示し、住民の思いを聞いていきたい」と話す。

 昨年10月12日の台風19号では宮原地区で住宅35戸、事業所22棟、下境地区で49戸、6棟が浸水被害に遭った。宮原地区では那珂川が大きく蛇行しており、下境地区は那珂川と荒川の合流地点が近いなど、災害発生のリスクが大きい。

 那珂川を管理する常陸河川国道事務所(水戸市)によると、東日本大震災の津波被害を受けた東北地方などでこの事業の実績はあるが、「河川の浸水被害で実施する例は非常に珍しい」と説明する。

 一方、茂木町は現在、防災集団移転に関する住民の意向調査を進めている。担当者は「あくまで別の選択肢も含めた候補の一つ」とするが、「ハードやインフラ整備には限界があるのも確か」と指摘する。

 移転には住民の同意に加え、移転先の土地の確保、地域コミュニティーの維持、住宅が離れた際の耕作の継続などの課題もある。

 宇都宮大地域デザイン科学部の池田裕一(いけだひろかず)教授(河川工学)は「災害の強度が増す中、河川だけに水を封じ込めて住民を守ることが難しくなり、あふれても被害を最小に抑える減災やコンパクトシティーの理念を含めた住み方を考える必要がある」と指摘。「(防災集団移転は)その地域の住民の暮らし方、災害リスクの特徴に合わせ柔軟に議論することが重要」と説明している。

 【ズーム】防災集団移転促進事業 自然災害が発生した地域や災害のおそれがある災害危険区域の住居を、高台など安全な場所に集団移転させる事業。10戸以上の規模が必要。市町が事業主体だが、移転先の用地取得や造成、移転者の土地購入・住宅建設に対する補助など経費の90%以上を国の負担で実施できる。