1969年に来日したハンガリー出身の彫刻家ワグナー・ナンドールさんは、益子町の里山の風景を気に入り、翌年アトリエを建てて移り住んだ▼すぐに県の依頼で約2メートルのブロンズ像を制作。はんてん姿の女性が子供を背負い、左手に風呂敷包みを持った「母子像」で、妻のちよさん(90)は「益子に来た当時、ああした格好の女性を見掛け、とても美しい姿だと言っていた」と振り返る▼72年に開館した県立美術館の収蔵品第1号となり、庭に屋外展示された。しかし、常設展示館の増設に伴って収蔵庫に40年間保管されたままに。なんとももったいない話である▼関係者から要望があったことや、本県が東京五輪でハンガリーのホストタウンになったことを受け、友好交流のシンボルとして先日、県総合運動公園内に設置され、久々に日の目を見た▼22年生まれのワグナーさんは、美術大の学生時代に起きた第2次世界大戦で大けがを負い、ハンガリー動乱により亡命を余儀なくされるなど、戦争に人生を翻弄(ほんろう)され続けた。日本国籍を取得し、75歳で亡くなるまで益子で制作に打ち込んだ▼今月、開設20周年を迎えた益子のアートギャラリーには220点が収蔵されている。今回の再展示を契機に、平和への願いが込められた作品の数々を改めて鑑賞したい。秋季展は来月15日から。