山の輪郭が宵闇に消えていく。池を背にした舞台に照明がともり、花火が上がる。富山県南砺市利賀(とが)村で、この夏も恒例の演劇祭が開かれた。劇団SCOTのサマーシーズンだ▼JR富山駅からバスで約2時間。岐阜県に接する人口約500人の過疎の村には、六つの劇場があり、国際的な「演劇の聖地」として知られる▼演出家の鈴木忠志(すずき・ただし)さん(81)が、SCOTの前身である早稲田小劇場の本拠地を利賀村に移して44年になる。昨年は16カ国・地域の劇団が参加する「シアター・オリンピックス」も開催した▼鈴木さんは「コロナになって、東京の演劇人は練習もできない。利賀村に来ていて、本当に良かった」と話す。「3密」にならない環境で自由に稽古ができる。野菜作りも始め、食べる物には困らない。劇団の在りよう自体が、日本社会の現状への批判になっている、と鈴木さん▼提案するのは、若手文化人を地方へ分散させることだ。国と自治体が補助金を出し100万人単位の移住を促す。地方には空き家がたくさんあるし、昼間は農作業をして、夜に稽古すればいい。それこそが「新しい生活様式」だ-▼「そうしないと、将来、外国と競える人材が育たない。戦国時代も、明治維新の時も、面白い人は田舎から出てきた」。自ら実践してきただけに、説得力を感じる。