足利市出身の想田和弘(そうだかずひろ)監督(50)の作品は、普段見慣れた映画とはかなり異質だ。音楽やナレーションがない。あらかじめ結末を考えず、台本も用意せずに行き当たりばったりで撮る。本人は「観察映画」と呼ぶ▼編集が難しそうだが「何のフラストレーションもない。ゴールがないから失敗もない」と笑う。「散歩に似ている」とも。確かに散歩は、途中で見つけたかれんな花や美しい夕焼けなど、ひょんな出会いがあるから楽しい▼構えないからこそ見える真実や感動があるということか。最新作「精神0」の上映会が、監督を迎え、地元足利で開かれた。どう展開するのか最後まで見えないまま、映画は終わった▼ただ、登場した岡山県の老精神科医と認知症が進んだ妻の生活を通じ、互いを慈しむ心が観客の琴線に触れたのは間違いない。終了後、優しい空気が会場を包んだ▼業界はコロナ禍で厳しい状況にある。監督や主催した市民有志は感染防止対策も徹底した。製作者と劇場、観客のどれが欠けても映画は成り立たない。劇場に足を運んでほしいという監督の思いも伝わってきた▼広い劇場の定員は半分に抑えたが、2度の上映はいずれも満員御礼。コペルニクス的発想の転換で映画の常識を覆し、新たな境地を切り開く監督の作品は、着実に多くの人に受け入れられている。