世間の関心は既に次の政権に移ってはいるが、やはり触れておかなければならない。安倍晋三首相が退陣を表明した記者会見で語らなかったことについてだ▼安倍首相は「志半ばで職を去るのは断腸の思い」と述べ、心残りの課題を挙げた。その中に東日本大震災と東京電力福島第1原発事故への言及は一言もなかった▼2012年末に再登板した安倍首相は最初の通常国会の施政方針演説でこう述べている。「現場主義を徹底し、課題を一つ一つ解決する」。原発事故に関しても「福島は今も事故の被害に苦しんでいる。若者が希望に胸を膨らませられる東北をつくり上げる」と▼それ以来、衆参両院の選挙では公示当日に必ず福島県に入るなど、復興に取り組む姿をアピールしてきた。原発事故による汚染水について「状況はコントロールされている」と訴え、東京五輪・パラリンピックの招致につなげた▼本人も特別な思い入れがあるだろうと考えていた。ところが退陣会見はそれを裏切った。大震災から約9年半。いまだに約4万3千の人が避難生活を強いられている。福島原発では終わりの見えない事故処理の作業が続く▼アベノミクス、1億総活躍、女性活躍-。看板を次々と掛け替えて長期政権につなげた安倍首相。「震災復興」もその看板の一つでしかなかったのだろうか。