防犯カメラが捉えた子牛盗難の様子。短パン姿の男2人が子牛を逆さづりにして運び出している=8月22日深夜、足利市内(鶴田ファーミング提供)

 足利市や群馬県などで、牛や豚が盗まれる事件が相次いでいる。8月下旬時点で豚約680頭、子牛8頭が姿を消した。県内の畜産関係者は「聞いたことがない事件」「誰が、なぜ盗んだのか」と首をかしげる。国内の家畜や食肉の流通は厳格に管理されており、盗品を売りさばくのは困難。食用なのか、闇の販売ルートがあるのか。関係者間に困惑は広がり、衛生管理への懸念も強まっている。

 被害が大きいのは群馬県で、7月上旬から8月28日までに前橋市や太田市など4市7養豚場から豚約670頭が盗まれた。さらに子牛2頭、ニワトリ28羽が被害に遭った。茨城県では豚約10頭が盗まれた。

 足利市では6~8月、牧場2カ所で3回、計6頭の子牛が盗まれた。「鶴田ファーミング」(足利市羽刈町)は6月の被害の後、牛舎そばに防犯カメラを設置した。そのカメラには8月22日深夜、子牛を盗み出す男3人の姿が映っていた。暗闇の中、子牛の足を縛り、逆さづりにしてワゴン車に運び入れるまで10分ほどの犯行だった。

 鶴田一弘(つるたかずひろ)社長(57)は「私たち繁殖農家は、いわば産婦人科であり小児科。スタッフ全員がそんな(愛情深い)気持ちで仕事に取り組んでおり、やはり犯行は許せない」と唇をかむ。

 映像を見る限り子牛はぐったりとしており、県内の畜産関係者の一人は「薬や注射でおとなしくさせたのか。牛の扱いに慣れた者の犯行か、詳しい者が指示役にいるのかも」と話す。

 一方で「牛は20年前の牛海綿状脳症(BSE)騒動以来、個体識別番号で厳格に管理され、正規の流通ルートで売りさばくのはほぼ無理。食べるためとしても、あの月齢の牛は肉が育っておらず、おいしくないはずだが…」と犯行目的の見えづらさに首をかしげる。

 関係者は今後の被害拡大に神経をとがらせており、栃木県は家畜の盗難防止対策を呼び掛ける文書をホームページに掲載した。

 和牛の繁殖、肥育に取り組む「サイトウ農場」(小山市下初田)の斎藤雄志(さいとうたけし)社長(42)は「(牛は盗まれないという)常識が通用しない事態。しかし新型コロナウイルスの影響で経営は苦しく、新たな防犯対策への設備投資は正直厳しい」と表情を曇らせる。

 豚熱(CSF)をはじめ、感染症拡大への懸念も強い。県南家畜保健衛生所の担当者は「犯人が牛のふん尿などが付いた靴で別の牧場に侵入すれば、病原菌を動かしてしまうリスクが生じる」と指摘する。

 各県の犯行について関連は今のところ不明。県警は防犯カメラの映像も参考に慎重に捜査を続けている。