「皆さんから祝辞を頂き、どこの人の話かと思いました」。その昔、知り合いの結婚式で、新郎の父親があいさつした際の切り出しだ。褒め言葉続きに、自分の息子と思えなかった、という自虐ネタだった▼不謹慎かもしれないが、葬儀でも同じようなことがある。人生の節目で過去を振り返るとき、当事者は往々にして「いい人」になる▼安倍晋三(あべしんぞう)首相が辞意を表明した。健康不安説はあったが、当面は続投するとみていたため驚いた。国民は歴代最長となった在職期間を検証し、どのような評価を下すのだろうか▼アベノミクスの大号令の下、大胆な金融緩和と積極財政により企業収益は急上昇し、求人倍率も高いレベルに回復した。6回あった国政選挙では先頭に立ち、大勝の連続で圧倒的多数の議席を確保し続けた▼その一方で貧富、地域間の格差が拡大。「安倍1強」を背景にした強引な国会運営は批判もあり、閣僚の不祥事、辞任も相次いだ。森友、加計両学園、桜を見る会の問題も疑惑は残る。新型コロナ対応での迷走は記憶に新しい。果たして政治的遺産(レガシー)はあったのか▼今後は、後任選びが一気に熱を帯びる。候補の一人に、第2次安倍内閣で経済産業、経済再生など主要閣僚を歴任している本県選出の茂木敏充(もてぎとしみつ)外相の名前が挙がっている。行方が気になる。