新型コロナウイルスがまん延し連日、紙面で目にする「クラスター(感染者集団)」。本来は果物の房や人・物の群れ、集団という意味だ▼先の戦争で大量に投下され、宇都宮などの街を焼き尽くしたのも、焼夷(しょうい)弾を束ねたクラスター爆弾だった。戦争の記憶を継承する市民団体「ピースうつのみや」の佐藤信明(さとうしんめい)さん(75)は「この言葉が今よみがえるとは」と苦笑する▼佐藤さんはコロナ禍の巣ごもり時間などを使い、団体に寄せられた戦時中の市民の日記を現代語に訳している。戦後75年がたち、旧字体の文を読める人はまずいない。次代に残そうと一人こつこつ取り組んでいる▼戦後しばらくして書いたとみられる青年の日記は、終戦直前、身内を相次いで襲った不幸をつづっている。両親は宇都宮空襲で瀕死(ひんし)の重傷を負い、婚約者は機銃掃射で無残な姿となった▼変わり果てた市街や、戦争がいつ終わるとも知らず疲弊した市民の様子も手に取るように分かる。「宇都宮空襲は詳細がある程度明らかになったが、その後の状況はあまり知られていない」と佐藤さん。惨状が鮮明に浮かび上がる▼市井の人の日記は概して、本人が亡くなれば共に露と消える。その宿命にあらがい、残ったものに光を当てたい。戦争体験者が減った今、戦争の理不尽さを後世に伝える貴重な資料である。